芥川賞は、日本文学の世界で最も権威ある賞の一つです。
多くの才能ある作家たちに光を当て、新たな文学の才能を発掘し、多くの優れた作家たちを世に送り出してきました。
この賞は、これまでに数多くの名作を生み出し、日本の文学史に深い影響を与え続けています。
ガイドさん
本記事では、芥川賞の歴代受賞作品とその受賞者を一覧でご紹介し、各作品のあらすじも簡単にコメントしています。
それぞれの作品には、作家の個性や時代背景が反映されており、その魅力を知ることで作品に対する理解が深まります。
受賞作品の背景や魅力を知ることで、新しい読書の楽しみを見つけてみませんか?
また、気になる作品があれば、ぜひ手に取って読んでみてください。
読者さん
芥川賞とは?
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芥川賞は、日本文学界で最も権威のある文学賞のひとつです。特に新人作家にとっての登竜門として知られ、毎年多くの作品がこの栄誉を目指して応募されます。このセクションでは、以下の点について詳しく解説していきます。
- 芥川賞の歴史と創設の経緯
- 選考基準と選考の流れ
- 芥川賞の賞金と受賞者の特典
- 芥川賞と直木賞の違い
芥川賞の成り立ちや背景、そしてその後の発展について、また他の文学賞との違いも含めて詳しく学んでいきましょう。
芥川賞の歴史と創設の経緯
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芥川賞は1935年に設立されました。
この賞は、文豪・芥川龍之介の遺志を継いで新たな才能を発掘しようと、作家・菊池寛によって創設されました。
当時の日本は、戦争や社会の変動が激しい時代であり、人々は文学によって希望や慰めを求めていました。
芥川賞は、若手作家に文学の舞台に立つ機会を与えることで、日本文学の新しい風を吹き込むことを目指したのです。
この賞の創設当初は、文学に対する期待や、社会の変動に伴う文化的な背景が深く関係していました。
特に、芥川龍之介自身が持っていた「文学は人々の心に影響を与える力がある」という信念が、この賞の基礎にあります。
そのため、芥川賞は単なる文学の競技ではなく、作家として社会に影響を与える責任を持つことも意味しています。
ガイドさん
芥川賞は若手作家を支援するための賞としての位置づけが強く、初めての受賞者には「文学のスタート地点に立つ」という大きな意味が込められています。
また、芥川賞受賞は文学的な才能の証明であり、それをもとに多くの作家が新たな一歩を踏み出していきます。
選考基準と選考の流れ
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芥川賞の選考基準は「純文学」と呼ばれるジャンルに重点を置いています。
純文学とは、人間の深層心理や社会の問題を繊細に描く作品を指します。
選考過程ではまず、文学評論家や作家による推薦が行われ、一次選考、二次選考を経て最終的な受賞作が決定されます。
このプロセスは非常に厳格であり、文学的価値の高い作品が選ばれるのが特徴です。
選考においては、単に文学的な技術だけでなく、作品が持つテーマ性や、読者に与える深い感動が重視されます。
また、選考委員は日本の文壇を代表する作家や評論家で構成されており、その選考基準は時代の流れや社会のニーズに応じて変化することもあります。
このため、受賞作は毎年異なるテーマやアプローチを持ち、その年の日本社会を反映した作品が選ばれることが多いです。
ガイドさん
純文学というジャンルは、エンタメ性よりも深いテーマ性を重視しており、受賞作はその年の社会や時代の「鏡」としての役割を持つことが多いです。
そのため、芥川賞の受賞作を読むことは、単に物語を楽しむだけでなく、その時代の背景を感じ取ることにもつながります。
芥川賞の賞金と受賞者の特典
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芥川賞の受賞者には賞金として100万円が授与されます。
この金額は文学賞としては高額ではありませんが、何よりも大きな価値があるのは「作家としての認知度の向上」です。
芥川賞を受賞すると、その作家は一躍注目を集め、大手出版社からの書籍出版やメディア露出の機会が増えます。
また、文壇における地位も大きく向上するため、作家としてのキャリアが大きく開かれることになります。
さらに、芥川賞受賞者はその後の作品が注目されるため、出版業界や文学ファンからの期待も高まります。
この期待はプレッシャーでもありますが、一方で作家としてさらなる成長を促す大きな原動力にもなります。
また、受賞によって得られる人脈やメディアでの注目度は、他の文学賞にはないほど強力であり、作家の将来に大きな影響を与えることが多いです。
ガイドさん
芥川賞受賞は、金銭的な報酬以上に〈作家としての名声とチャンス〉を得るための重要な一歩です。
この受賞によって、作家は「ただの新人」から「未来の文豪」へとステップアップすることが期待されます。
芥川賞と直木賞の違い
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芥川賞と並んで有名な文学賞に「直木賞」がありますが、両者には明確な違いがあります。
芥川賞が「純文学」を対象としているのに対し、直木賞は「大衆文学」を対象としています。
純文学が人間の深層や社会問題を扱う一方、大衆文学はエンターテイメント性が高く、広く一般の読者に楽しんでもらえることを重視しています。
このように、文学の方向性や作品の性質が異なることから、芥川賞と直木賞はそれぞれ異なる価値を持つのです。
また、直木賞は「楽しさ」や「わかりやすさ」を重視しており、多くの人々に愛されることを目的としています。
そのため、直木賞の受賞作は映画化やドラマ化されることも多く、広い層に受け入れられやすい作品が選ばれる傾向にあります。
一方、芥川賞は深いテーマを持ち、社会や人間の本質に迫る作品が選ばれるため、読者に対して考えさせる内容が多く含まれています。
このように、両者は日本文学の異なる側面を象徴しており、それぞれの魅力があります。
ガイドさん
芥川賞と直木賞は〈文学の質〉に焦点を当てるか〈娯楽性〉に焦点を当てるかという点で、大きく異なる軸を持っています。
この違いがあるからこそ、両方の賞が存在する意味があり、日本の文学界は多様な作品によって豊かになっています。
171回(2024年上半期) 朝比奈秋 『サンショウウオの四十九日』
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同じ身体を生きる姉妹、その驚きに満ちた普通の人生を描く、芥川賞候補作。周りからは一人に見える。でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。不思議なことはなにもない。けれど姉妹は考える、隣のあなたは誰なのか? そして今これを考えているのは誰なのか――三島賞受賞作『植物少女』の衝撃再び。最も注目される作家が医師としての経験と驚異の想像力で人生の普遍を描く、世界が初めて出会う物語。
171回(2024年上半期) 松永K三蔵 『バリ山行』
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第171回芥川賞受賞作。古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているベテラン社員妻鹿があえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。
「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!」(本文より抜粋)
会社も人生も山あり谷あり、バリの達人と危険な道行き。圧倒的生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。
170回(2023年下半期) 九段理江 『東京都同情塔』
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Qあなたは、犯罪者に同情できますか?Qあなたはなぜ、犯罪者ではないのですか?生成AI時代の預言の書!第170回芥川賞受賞。
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日本人の欺瞞をユーモラスに描いた現代版「バベルの塔」。ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
169回(2023年上半期) 市川沙央 『ハンチバック』
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重度障害者の井沢釈華は、十畳の自室からあらゆる言葉を送り出す。圧倒的圧力&ユーモアで選考会に衝撃を与えた文学界新人賞受賞作。第169回芥川賞受賞。
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第169回芥川賞受賞。
選考会沸騰の大問題作!
「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」
井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。
両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす--。
168回(2022年下半期) 井戸川射子 『この世の喜びよ』
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第168回芥川賞受賞!
思い出すことは、世界に出会い直すこと。
静かな感動を呼ぶ傑作小説集。
娘たちが幼い頃、よく一緒に過ごした近所のショッピングセンター。その喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼びさましていく芥川賞受賞作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。
ほかに、ハウスメーカーの建売住宅にひとり体験宿泊する主婦を描く「マイホーム」、父子連れのキャンプに叔父と参加した少年が主人公の「キャンプ」を収録。
最初の小説集『ここはとても速い川』が、キノベス!2022年10位、野間文芸新人賞受賞。注目の新鋭がはなつ、待望の第二小説集。
二人の目にはきっと、あなたの知らない景色が広がっている。あなたは頷いた。こうして分からなかった言葉があっても、聞き返さないようになっていく。
168回(2022年下半期) 佐藤厚志 『荒地の家族』
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元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点なのか―。あの災厄から十年余り、生活も仕事道具も攫われ、妻を喪った男はその地を彷徨い続けた。仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。第168回芥川賞受賞。
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あの災厄から十年余り、男はその地を彷徨いつづけた。第168回芥川賞候補作。元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か――。40歳の植木職人・坂井祐治は、あの災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。
167回(2022年上半期) 高瀬隼子 『おいしいごはんが食べられますように』
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職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない人間関係を、食べものを通して描く傑作。心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
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第167回芥川賞受賞!
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。
166回(2021年下半期) 砂川文次 『ブラックボックス』
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第166回芥川賞受賞作。
ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。
昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)
気鋭の実力派作家、新境地の傑作。
165回(2021年上半期) 石沢麻依 『貝に続く場所にて』
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第165回芥川賞受賞!第64回群像新人文学賞受賞のデビュー作。
コロナ禍が影を落とす異国の街に、9年前の光景が重なり合う。ドイツの学術都市に暮らす私の元に、震災で行方不明になったはずの友人が現れる。人と場所の記憶に向かい合い、静謐な祈りを込めて描く鎮魂の物語。
165回(2021年上半期) 李琴峰 『彼岸花が咲く島』
¥790
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彼岸花の咲き乱れる砂浜に倒れ、記憶を失っていた少女は、海の向こうから来たので宇実と名付けられた。ノロに憧れる島の少女・游娜と、“女語”を習得している少年・拓慈。そして宇実は、この島の深い歴史に導かれていく。第165回芥川賞候補作。
164回(2020年下半期) 宇佐見りん 『推し、燃ゆ』
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推しが炎上した。ままならない人生を引きずり、祈るように推しを推す。そんなある日、推しがファンを殴った。第164回芥川龍之介賞受賞。
163回(2020年上半期) 高山羽根子 『首里の馬』
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この島のできる限りすべての情報を守りたい―。いつか全世界の真実と接続するように。世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが胸にせまる。第163回芥川賞受賞作。
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この島のできる限りの情報が、いつか全世界の真実と接続するように。沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。中学生の頃から資料の整理を手伝っている未名子は、世界の果ての遠く隔たった場所にいるひとたちにオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷いこんできて……。世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが切実に胸にせまる感動作。
163回(2020年上半期) 遠野遥 『破局』
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私を阻むものは、私自身にほかならない。ラグビー、筋トレ、恋とセックス―ふたりの女を行き来するいびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。第163回芥川賞受賞。
162回(2019年下半期) 古川真人 『背高泡立草』
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【第162回 芥川賞受賞作】
草は刈らねばならない。そこに埋もれているのは、納屋だけではないから。
記憶と歴史が結びついた、著者新境地。
大村奈美は、母の実家・吉川家の納屋の草刈りをするために、母、伯母、従姉妹とともに福岡から長崎の島に向かう。吉川家には<古か家>と<新しい方の家>があるが、祖母が亡くなり、いずれも空き家になっていた。奈美は二つの家に関して、伯父や祖母の姉に話を聞く。吉川家は<新しい方の家>が建っている場所で戦前は酒屋をしていたが、戦中に統制が厳しくなって廃業し、満州に行く同じ集落の者から家を買って移り住んだという。それが<古か家>だった。島にはいつの時代も、海の向こうに出ていく者や、海からやってくる者があった。江戸時代には捕鯨が盛んで蝦夷でも漁をした者がおり、戦後には故郷の朝鮮に帰ろうとして船が難破し島の漁師に救助された人々がいた。時代が下って、カヌーに乗って鹿児島からやってきたという少年が現れたこともあった。草に埋もれた納屋を見ながら奈美は、吉川の者たちと二つの家に流れた時間、これから流れるだろう時間を思うのだった。
161回(2019年上半期) 今村夏子 『むらさきのスカートの女』
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近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない“わたし”は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導する。『あひる』、『星の子』が芥川賞候補となった話題の著者による待望の新作中篇。
160回(2018年下半期) 上田岳弘 『ニムロッド』
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それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。新時代の仮想通貨(ビットコイン)小説!第160回芥川賞受賞!
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第160回芥川賞受賞作。
NHK総合「おはよう日本」 インタビューシリーズ「令和に生きる」に著者出演で大反響!
それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。 あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。
新時代の仮想通貨小説!
仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。
中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。
小説家への夢に挫折した同僚・ニムロッドこと荷室仁。……
やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。「すべては取り換え可能であった」という答えを残して。 ……
160回(2018年下半期) 町屋 良平 『1R1分34秒』
¥528
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デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。当たったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習。考えすぎてばかりいる、21歳プロボクサーのぼくは自分の弱さに、その人生に厭きていた。長年のトレーナーにも見捨てられ、現役ボクサーで駆け出しトレーナーの変わり者、ウメキチとの練習の日々が、ぼくを、その心身を、世界を変えていく―。第160回芥川賞受賞作。
[日販商品データベースより]
なんでおまえはボクシングやってんの? 青春小説の新鋭が放つ渾身の一撃。デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。当たったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習。考えすぎてばかりいる21歳プロボクサーのぼくは自分の弱さに、その人生に厭きていた。長年のトレーナーにも見捨てられ、変わり者のウメキチとの練習の日々が、ぼくを、その心身を、世界を変えていく――。
159回(2018年上半期) 高橋弘希 『送り火』
¥680
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少年たちは暴力の果てに何を見たのか?東京から山間の町へ引っ越した中学三年生の歩。級友とも、うまくやってきたはずだった。あの夏、河へ火を流す日までは―。第159回芥川賞受賞作。
[日販商品データベースより]
第159回芥川賞受賞作!
春休み、東京から山間の町に引っ越した中学3年生の少年・歩。
新しい中学校は、クラスの人数も少なく、来年には統合されてしまうのだ。
クラスの中心にいる晃は、花札を使って物事を決め、いつも負けてみんなのコーラを買ってくるのは稔の役割だ。転校を繰り返した歩は、この土地でも、場所に馴染み、学級に溶け込み、小さな集団に属することができた、と信じていた。
夏休み、歩は家族でねぶた祭りを見に行った。晃からは、河へ火を流す地元の習わしにも誘われる。
「河へ火を流す、急流の中を、集落の若衆が三艘の葦船を引いていく。葦船の帆柱には、火が灯されている」
しかし、晃との約束の場所にいたのは、数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった。やがて始まる、上級生からの伝統といういじめの遊戯。
歩にはもう、目の前の光景が暴力にも見えない。黄色い眩暈の中で、ただよく分からない人間たちが蠢き、よく分からない遊戯に熱狂し、辺りが血液で汚れていく。
豊かな自然の中で、すくすくと成長していくはずだった
少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――
「圧倒的な文章力がある」「完成度の高い作品」と高く評価された中篇小説。
158回(2017年下半期) 若竹千佐子 『おらおらでひとりいぐも』
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74歳、ひとり暮らしの桃子さん。夫に死なれ、子どもとは疎遠。新たな「老いの境地」を描いた感動作!圧倒的自由!賑やかな孤独!63歳・史上最年長受賞、渾身のデビュー作!第54回文藝賞受賞作。
158回(2017年下半期) 石井遊佳 『百年泥』
¥528
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チェンナイで百年に一度の洪水!アダイヤール川氾濫、市内ほぼ全域浸水か。橋の下には猛烈な勢いで逆巻く川、橋の上にはそれを見物しに雲集したとてつもない人びとの群れ…こうなにもかも泥まみれでは、どれが私の記憶、どれが誰の記憶かなど知りようがないではないか?洪水の泥から百年の記憶が蘇る。大阪生まれインド発、けったいな荒唐無稽―魔術的でリアルな新文学!第158回芥川賞受賞!
[日販商品データベースより]
橋の下に逆巻く川の流れの泥から百年の記憶が蘇る! かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聴かれなかった歌。話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。流れゆくのは――あったかもしれない人生、群れみだれる人びと……
157回(2017年上半期) 沼田真佑 『影裏』
¥601
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大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。交差する追憶と現実。第157回芥川賞受賞。
[日販商品データベースより]
第157回芥川賞受賞作。
大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。
北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。
ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。
いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、「あの日」以後、触れることになるのだが……。
樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。
156回(2016年下半期) 山下澄人 『しんせかい』
¥539
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[BOOKデータベースより]
19歳の山下スミトは演劇塾で学ぶため、船に乗って北を目指す。辿り着いた先の“谷”では、俳優や脚本家志望の若者たちが自給自足の共同生活を営んでいた。苛酷な肉体労働、“先生”との軋轢、地元の女性と同期の間で揺れ動く感情―。思い出すことの痛みと向き合い書かれた表題作のほか、入塾試験前夜の不穏な内面を映し出す短篇を収録。
[日販商品データベースより]
19歳の山下スミトは「先生」の演劇塾で学ぶため、北海道に辿り着いた。「谷」と呼ばれるその土地では、俳優や脚本家を目指す若者たちが自給自足の共同生活を営んでいる…。気鋭作家が自らの原点を描き出す渾身作。〈受賞情報〉芥川賞(第156回)
155回(2016年上半期) 村田沙耶香 『コンビニ人間』
¥631
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36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。
154回(2015年下半期) 滝口悠生 『死んでいない者』
¥744
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秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。一人ひとりが死に思いをはせ、互いを思い、家族の記憶が広がっていく。生の断片が重なり合って永遠の時間が立ち上がる奇跡の一夜。第154回芥川賞受賞。
154回(2015年下半期) 本谷有希子 『異類婚姻譚』
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子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。「夫婦」という形式への違和を軽妙洒脱に描いた表題作ほか、自由奔放な想像力で日常を異化する、三島賞&大江賞作家の2年半ぶり最新刊!
153回(2015年上半期) 羽田圭介 『スクラップ・アンド・ビルド』
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「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。
153回(2015年上半期) 又吉直樹 『火花』
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お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。
152回(2014年下半期) 小野正嗣 『九年前の祈り』
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三十五歳になるシングルマザーのさなえは、幼い息子の希敏をつれてこの海辺の小さな集落に戻ってきた。何かのスイッチが入ると引きちぎられたミミズのようにのたうちまわり大騒ぎする息子を持て余しながら、さなえが懐かしく思い出したのは、九年前の「みっちゃん姉」の言葉だった。表題作「九年前の祈り」他、四作を収録。
151回(2014年上半期) 柴崎友香 『春の庭』
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第151回芥川賞受賞作。
行定勲監督によって映画化された『きょうのできごと』をはじめ、なにげない日常生活の中に、同時代の気分をあざやかに切り取ってきた、実力派・柴崎友香がさらにその手法を深化させた最新作。
離婚したばかりの元美容師・太郎は、世田谷にある取り壊し寸前の古いアパートに引っ越してきた。あるとき、同じアパートに住む女が、塀を乗り越え、隣の家の敷地に侵入しようとしているのを目撃する。注意しようと呼び止めたところ、太郎は女から意外な動機を聞かされる……
150回(2013年下半期) 小山田浩子 『穴』
¥506
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仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい―。ごく平凡な日常の中に、ときおり顔を覗かせる異界。『工場』で話題を集めた著者による待望の第二作品集。芥川賞受賞作のほか「いたちなく」「ゆきの宿」を収録。
149回(2013年上半期) 藤野可織 『爪と目』
¥464
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あるとき、母が死んだ。そして父はあなたに再婚を申し出た。あなたはコンタクトレンズで目に傷をつくり訪れた眼科で父と出会ったのだ。わたしはあなたの目をこじあけて―三歳児の「わたし」が、父、喪った母、父の再婚相手をとりまく不穏な関係を語る。母はなぜ死に、継母はどういった運命を辿るのか…。独自の視点へのアプローチで、読み手を戦慄させるホラー。芥川賞受賞作。
148回(2012年下半期) 黒田夏子 『abさんご』
¥943
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史上最高齢・75歳で芥川賞を受賞した「新人女性作家」のデビュー作。蓮實重彦・東大元総長の絶賛を浴び、「早稲田文学新人賞」を受賞した表題作「abさんご」。全文横書き、かつ固有名詞を一切使わないという日本語の限界に挑んだ超実験小説ながら、その文章には、「昭和」の知的な家庭に生まれたひとりの幼な子が成長し、両親を見送るまでの美しくしなやかな物語が隠されています。ひらがなのやまと言葉を多用した文体には、著者の重ねてきた年輪と、深い国文学への造詣が詰まっています。
著者は、昭和34年に早稲田大学教育学部を卒業後、教員・校正者などとして働きながら、半世紀以上ひたむきに「文学」と向き合ってきました。昭和38年には丹羽文雄が選考委員を務める「読売短編小説賞」に入選します。本書には丹羽から「この作者には素質があるようだ」との選評を引き出した〝幻のデビュー作〟ほか2編も併録します。
しかもその部分は縦書きなので、前からも後ろからも読める「誰も見たことがない」装丁でお送りします。
はたして、著者の「50年かけた小説修行」とはどのようなものだったのでしょうか。その答えは、本書を読んだ読者にしかわかりません。文学の限りない可能性を示す、若々しく成熟した作品をお楽しみください。
147回(2012年上半期) 鹿島田真希 『冥土めぐり』
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裕福だった過去に執着し、借金を重ねる母と弟。一族の災厄から逃れたはずの奈津子だが、突然、夫が不治の病にかかる。だがそれは、奇跡のような幸運だった―夫とめぐる失われた過去への旅。第147回芥川賞候補作。
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あの過去を確かめるため、私は夫と旅に出た。裕福だった過去に執着し、借金を重ねる母と弟。彼らから逃れたはずの奈津子だが、突然、夫が不治の病になる。だがそれは奇跡のような幸運だった…。著者最高傑作。
146回(2011年下半期) 円城塔 『道化師の蝶』
¥660
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無活用ラテン語で書かれた小説『猫の下で読むに限る』で道化師と名指された実業家のエイブラムス氏。その作者である友幸友幸は、エイブラムス氏の潤沢な資金と人員を投入した追跡をよそに転居を繰り返し、現地の言葉で書かれた原稿を残してゆく。幾重にも織り上げられた言語をめぐる物語。芥川賞受賞作。
146回(2011年下半期) 田中慎弥 『共喰い』
¥462
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一つ年上の幼馴染、千種と付き合う十七歳の遠馬は、父と父の女の琴子と暮らしていた。セックスのときに琴子を殴る父と自分は違うと自らに言い聞かせる遠馬だったが、やがて内から沸きあがる衝動に戸惑いつつも、次第にそれを抑えきれなくなって―。川辺の田舎町を舞台に起こる、逃げ場のない血と性の物語。大きな話題を呼んだ第146回芥川賞受賞作。文庫化にあたり瀬戸内寂聴氏との対談を収録。
145回(2011年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
144回(2010年下半期) 朝吹真理子 『きことわ』
¥407
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貴子と永遠子。葉山の別荘で、同じ時間を過ごしたふたりの少女。最後に会ったのは、夏だった。25年後、別荘の解体をきっかけに、ふたりは再会する。ときにかみ合い、ときに食い違う、思い出。縺れる記憶、混ざる時間、交錯する夢と現。そうして境は消え、果てに言葉が解けだす―。やわらかな文章で紡がれる、曖昧で、しかし強かな世界のかたち。小説の愉悦に満ちた、芥川賞受賞作。
144回(2010年下半期) 西村賢太 『苦役列車』
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劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は―。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。
143回(2010年上半期) 赤染晶子 『乙女の密告』
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ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり…。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。
142回(2009年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
141回(2009年上半期) 磯崎憲一郎 『終の住処』
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結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかったのだ―。互いに二十代の長く続いた恋愛に敗れたあとで付き合いはじめ、三十を過ぎて結婚した男女。不安定で茫漠とした新婚生活を経て、あるときを境に十一年、妻は口を利かないままになる。遠く隔たったままの二人に歳月は容赦なく押し寄せた…。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。
140回(2008年下半期) 津村記久子 『ポトスライムの舟』
講談社
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29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが―。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。
139回(2008年上半期) 楊逸 『時が滲む朝』
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中国の小さな村に生まれた梁浩遠と謝志強。大志を抱いて大学に進学した2人を天安門事件が待ち受ける―。“我愛中国”を合言葉に中国の民主化を志す学生たちの苦悩と挫折の日々。北京五輪前夜までの等身大の中国人を描ききった、芥川賞受賞作の白眉。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の代表作。
138回(2007年下半期) 川上未映子 『乳と卵』
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娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった、芥川賞受賞作。
137回(2007年上半期) 諏訪哲史 『アサッテの人』
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吃音による疎外感から凡庸な言葉への嫌悪をつのらせ、孤独な風狂の末に行方をくらました若き叔父。彼にとって真に生きるとは「アサッテ」を生きることだった。世の通念から身をかわし続けた叔父の「哲学的奇行」の謎を解き明かすため、「私」は小説の筆を執るが…。群像新人文学賞と芥川賞のダブル受賞。
136回(2006年下半期) 青山七恵 『ひとり日和』
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世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ―二〇歳の知寿が居候することになったのは、二匹の猫が住む、七一歳・吟子さんの家。駅のホームが見える小さな平屋で共同生活を始めた知寿は、キオスクで働き、恋をし、時には吟子さんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。第一三六回芥川賞受賞作。短篇「出発」を併録。
135回(2006年上半期) 伊藤たかみ 『八月の路上に捨てる』
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三十歳の誕生日に離婚する予定の敦は、自動販売機の補充に回る車内で同僚の水城さんに結婚生活の顛末を話して聞かせる。社会のひずみに目を向けつつ、掛け違っていく男女を描いた、第135回芥川賞受賞の表題作ほか、単行本未収録の「安定期つれづれ」等、夫婦それぞれのあり方を鮮やかにとらえた3編。
134回(2005年下半期) 絲山秋子 『沖で待つ』
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仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。そう思っていた同期の太っちゃんが死んだ。約束を果たすため、私は太っちゃんの部屋にしのびこむ。仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く芥川賞受賞作「沖で待つ」に、「勤労感謝の日」、単行本未収録の短篇「みなみのしまのぶんたろう」を併録する。すべての働くひとに。
133回(2005年上半期) 中村文則 『土の中の子供』
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27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。
132回(2004年下半期) 阿部和重 『グランド・フィナーレ』
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「二〇〇一年のクリスマスを境に、我が家の紐帯は解れ」すべてを失った“わたし”は故郷に還る。そして「バスの走行音がジングルベルみたいに聞こえだした日曜日の夕方」二人の女児と出会った。神町―土地の因縁が紡ぐ物語。ここで何が終わり、はじまったのか。第132回芥川賞受賞作。
131回(2004年上半期) モブ・ノリオ 『介護入門』
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[BOOKデータベースより]
29歳、無職の“俺”。マリファナに耽溺しながら、寝たきりの祖母を自宅で介護する日々。“悟っては迷う魂の俺から朋輩へ”放たれる熱狂と呪詛。新しい饒舌文体でセンセーションを巻き起こした、モブ・ノリオのデビュー作にして芥川賞受賞作。単行本未収録の短篇「市町村合併協議会」「既知との遭遇」も収録。
130回(2003年下半期) 金原ひとみ 『蛇にピアス』
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[BOOKデータベースより]
「スプリットタンって知ってる?」そう言って、男は蛇のように二つに割れた舌を出した―。その男アマと同棲しながらサディストの彫り師シバとも関係をもつルイ。彼女は自らも舌にピアスを入れ、刺青を彫り、「身体改造」にはまっていく。痛みと快楽、暴力と死、激しい愛と絶望。今を生きる者たちの生の本質を鮮烈に描き、すばる文学賞と芥川賞を受賞した、金原ひとみの衝撃のデビュー作。
130回(2003年下半期) 綿矢りさ 『蹴りたい背中』
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“この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい”長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。
129回(2003年上半期) 吉村萬壱 『ハリガネムシ』
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サチコ、底辺を這いずる痩せた、小さな女。手首に無数のためらい傷を抱えて。その女を知って、高校教師の内のハリガネムシが動きだす。血を流し、堕ちた果てに…。身の内に潜む「悪」を描き切った驚愕・衝撃の芥川賞受賞作。人間存在の奥の奥を見据えて、おぞましくも深い感動を呼び起こす。単行本未収録「岬行」併録。
128回(2002年下半期) 大道珠貴 『しょっぱいドライブ』
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お金か?セックスか?いや…わたし(34歳・独身)、九十九さん(60代・妻子持ち)。しょっぱい愛の物語。芥川賞受賞作。
127回(2002年上半期) 吉田修一 『パーク・ライフ』
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公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。
126回(2001年下半期) 長嶋有 『猛スピードで母は』
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「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。
125回(2001年上半期) 玄侑宗久 『中陰の花』
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現役僧侶が生と死の間を見つめて選考委員全員の支持を集めた芥川賞受賞作。
124回(2000年下半期) 青来有一 『聖水』
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「聖水」は本当に奇蹟の水なのか。佐我里さんは教祖か、詐欺師か?死を目前に衰弱しながらも、聖水の効用を信じ続ける父と、佐我里さんの商法に反発を覚える息子。スーパーの経営権を巡る騒動と、新興宗教の様相をおびる聖水信仰。死にゆく者にとっての救済とは何かを問う芥川賞受賞作を始め、4篇を収録。
124回(2000年下半期) 堀江敏幸 『熊の敷石』
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「なんとなく」という感覚に支えられた違和と理解。そんな人とのつながりはあるのだろうか。フランス滞在中、旧友ヤンを田舎に訪ねた私が出会ったのは、友につらなるユダヤ人の歴史と経験、そして家主の女性と目の見えない幼い息子だった。芥川賞受賞の表題作をはじめ、人生の真実を静かに照らしだす作品集。
123回(2000年上半期) 町田康 『きれぎれ』
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絵描きの「俺」の趣味はランパブ通い。高校を中途で廃し、浪費家で夢見がちな性格のうえ、労働が大嫌い。金に困り、自分より劣る絵なのに認められ成功し、自分が好きな女と結婚している吉原に借りにいってしまうが…。現実と想像が交錯し、時空間を超える世界を描いた芥川賞受賞の表題作と他一篇を収録。
123回(2000年上半期) 松浦寿輝 『花腐し』
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『花腐し』芥川賞受賞作。多国籍な街、新宿・大久保の片隅、夜雨に穿たれた男の内部の穴に顕現する茸と花のイメージ。少女の肉体の襞をめくり上げ見える世界の裏側。腐敗してゆく現代の生と性の感覚を鋭く描く「知」と「抒情」の競演。『ひたひたと』芥川賞受賞第一作の特別書き下ろし新作小説。海に面した町、そこはかつて遊郭だった。少年時代の記憶、娼婦ナミ、行くあてのない人々の心と過去が、主人公「わたし」の中に流れ込んでくる。
122回(1999年下半期) 玄月 『蔭の棲みか』
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[BOOKデータベースより]
大阪市東部の下町にある、迷路のような集落。そこに隠棲するソバン老の右手首は、戦争で吹き飛ばされた。朝鮮人の元軍人が補償を求めて提訴したという新聞記事が、彼の過去を蘇らせ、集落に事件を呼ぶことに…。第122回芥川賞受賞作に、おおらかなユーモア漂う「おっぱい」と「舞台役者の孤独」を併録。
122回(1999年下半期) 藤野千夜 『夏の約束』
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ゲイのカップルの会社員マルオと編集者ヒカル。ヒカルと幼なじみの売れない小説家菊江。男から女になったトランスセクシャルな美容師たま代…少しハズれた彼らの日常を温かい視線で描き、芥川賞を受賞した表題作に、交番に婦人警官がいない謎を追う「主婦と交番」を収録した、コミカルで心にしみる作品集。
121回(1999年上半期) - 該当作品なし
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120回(1998年下半期) 平野啓一郎 『日蝕』
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錬金術の秘蹟、金色に輝く両性具有者、崩れゆく中世キリスト教世界を貫く異界の光…。華麗な筆致と壮大な文学的探求で、芥川賞を当時最年少受賞した衝撃のデビュー作「日蝕」。明治三十年の奈良十津川村。蛇毒を逃れ、運命の女に魅入られた青年詩人の胡蝶の夢の如き一瞬を、典雅な文体で描く「一月物語」。閉塞する現代文学を揺るがした二作品を収録し、平成の文学的事件を刻む。
119回(1998年上半期) 花村萬月 『ゲルマニウムの夜』
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人を殺し、育った修道院兼教護院に舞い戻った青年・朧。なおも修道女を犯し、暴力の衝動に身を任せ、冒涜の限りを尽くす。それこそ現代では「神」に最も近く在る道なのか。世紀末の虚無の中、神の子は暴走する。目指すは、僕の王国!第119回芥川賞を受賞した戦慄の問題作。
119回(1998年上半期) 藤沢周 『ブエノスアイレス午前零時』
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雪深いホテル。古いダンスホール…地方でくすぶる従業員カザマは、梅毒と噂される盲目の老嬢ミツコに出会う。ある夜、孤独な彼がミツコを誘い二人でタンゴを踊る時、ブエノスアイレスにも雪が降る。ベストセラーとなったリリカル・ハードボイルドな芥川賞受賞作。
118回(1997年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
117回(1997年上半期) 目取真俊 『水滴』
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徳正の右足が突然冬瓜のように膨れ始め、親指の先から水が噴き出したのは六月半ばだった。それから夜毎、徳正のベッドを男たちの亡霊が訪れ、滴る水に口をつける。五十年前の沖縄戦で、壕に置き去りにされた兵士たちだった…。沖縄の風土から生まれた芥川賞受賞作。
116回(1996年下半期) 辻仁成 『海峡の光』
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廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。
116回(1996年下半期) 柳美里 『家族シネマ』
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失われた家を求め、映画出演を決めた家族を描いた「家族シネマ」、同棲中の部屋を飛び出した登校拒否の過去を持つ女を描いた「真夏」、転校生といじめを題材にした「潮合い」―心に傷を負った人間が強く生きようとする姿を描き、家族が価値あるものかを現代に問う名作。芥川賞に輝く表題作含むベストセラー。
115回(1996年上半期) 川上弘美 『蛇を踏む』
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藪で、蛇を踏んだ。「踏まれたので仕方ありません」と声がして、蛇は女になった。「あなたのお母さんよ」と、部屋で料理を作って待っていた…。若い女性の自立と孤独を描いた芥川賞受賞作「蛇を踏む」。“消える家族”と“縮む家族”の縁組を通して、現代の家庭を寓意的に描く「消える」。ほか「惜夜記」を収録。
114回(1995年下半期) 又吉栄喜 『豚の報い』
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ある日、突然浦添のスナックに豚が闖入してきた。豚がもたらした厄を落とすため正吉(しょうきち)と三人の女たちは真謝島に向かう。ひたむきに生き、ときにユーモラスな沖縄の人々の素朴な生活を生き生きと描き、選考委員の圧倒的支持を得て第114回芥川賞を受賞した表題作。ほか一篇「背中の夾竹桃」を併録。
113回(1995年上半期) 保坂和志 『この人の閾』
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「汚くしてるけどおいでよ、おいでよ」というので、およそ十年ぶりに会ったこの人は、すっかり「おばさん」の主婦になっていた。でも、家族が構成する「家庭」という空間の、言わば隙間みたいな場所にこの人はいて、そのままで、しっくりとこの人なのだった…。芥川賞を受賞した表題作をはじめ、木漏れ日にも似たタッチで「日常」の「深遠」へと誘う、おとなのための四つの物語―。
112回(1994年下半期) - 該当作品なし
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111回(1994年上半期) 室井光広 『おどるでく』
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大学ノート七冊分の日記を見つけたのは去年の6月の終り、帰省先の生家の二階の隅でだった。日記は、日本語の内容がロシア文字で表音化されていた。ロシア字日記の“翻訳”から炙りだされる「おどるでく」の正体とは?忘却されたものたちの声なき声を描く
111回(1994年上半期) 笙野頼子 『タイムスリップ・コンビナート』
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海芝浦に向かう「私」を待ち受けるのは浦島太郎、レプリカント、マグロの目玉…。たどり着いた先はオキナワか?時間と空間はとめどなく歪み崩れていく。言葉が言葉を生み、現実と妄想が交錯する。哄笑とイメージの氾濫の中に、現代の、そして「私」の実相が浮び上がる。話題騒然の第111回芥川賞受賞作。
110回(1993年下半期) 奥泉光 『石の来歴』
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「石には宇宙が刻印されている」レイテで戦友から聞かされた言葉によって、岩石に魅せられた男。戦後、彼に訪れる苦難とは!?現在と過去、夢と現が交錯するなかで、妻は狂気にいざなわれ、子は死にもてあそばれる。華麗にしてペーソス溢れる文体で、時と心との織りなす迷宮を描ききる、気鋭の芥川賞受賞作。
109回(1993年上半期) 吉目木晴彦 『寂寥郊野』
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朝鮮戦争で来日したリチャードと結婚して幸恵がルイジアナ州バトンルージュに暮らしはじめて三十年。その幸恵の言動崩壊が始まり症状は目に見えて進んでいく。夫は妻の欝病に心あたりがないでもない。国際結婚と老いの孤立を描く現代文学の秀作。芥川賞受賞作。
108回(1992年下半期) 多和田葉子 『犬婿入り』
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多摩川べりのありふれた町の学習塾は“キタナラ塾”の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に「犬男」の太郎さんが押しかけてきて奇妙な二人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の二編を収録。
107回(1992年上半期) 藤原智美 『運転士』
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時刻ヨーシ、方向切替ヨーシ、発車。電車はスピードを急速に上げ、間もなく軌道が緩やかに下り始め、徐々に傾斜がきつくなっていく。傾斜角千分の三十五。都市と都市生活者の様々な貌をトンネルの闇と駅の輝きが妖しく繋ぐ。カミソリのように光る二本のレールの上に現代を官能的に描く。第107回芥川賞受賞。
106回(1991年下半期) 松村栄子 『至高聖所アバトーン』
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ピュアで乾いた鉱物質の新構想大学に入学し、寮生活を始めた沙月とルームメイトの真穂。奇矯な行為を見せる真穂とは気持ちがすれちがうばかりであったが…。ギリシアのアスクレピオス神殿の最奥にあるという夢治療の場「至高聖所」を舞台にした真穂の戯曲。そこに込められた淋しさの慰撫の願い。涙には溶けない鉱物質の孤独が、もう一つの孤独へ寄り添う過程を見事に描くキャンパス小説。第106回芥川賞受賞作。
105回(1991年上半期) 辺見庸 『自動起床装置』
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「…眠りの世界ではいろんなことが起きる。辛くて、狂おしくて、他愛なくて、突飛で、情けなくて…もう、すべてなんて言葉でおおえないほどすべてのことが起きる」ぼくと聡は、通信社の仮眠室で仮眠をとる人々を、快く目覚めへと導く「起こし屋」のアルバイトをしている。ところがある日「自動起床装置」なるものが導入された…。眠りという前人未到の領域から現代文明の衰弱を衝いた芥川賞受賞作。
105回(1991年上半期) 荻野アンナ 『背負い水』
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笑いがはじける。才気が回転する。知性がえぐりだす。そして、優雅が残り香のようにただよう。芥川賞受賞作。
104回(1990年下半期) 小川洋子 『妊娠カレンダー』
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出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹…。妊娠をきっかけとした心理と生理のゆらぎを描く芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」。謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ジミトリイ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢のようにあざやかな三篇の小説。
103回(1990年上半期) 辻原登 『村の名前』
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中国奥地を旅する日本人商社マンが、桃源郷の名をもつ村に迷い込んだ。そこで彼は、村の名前からは想像もつかない奇怪な出来事にであった。謎の溺死体、犬肉を食らう饗宴…。桃花の薫りがする女に導かれるように村の秘密へと近づき、ついに彼が見た真の村の姿とは。話題の芥川賞受賞作。
102回(1989年下半期) 大岡玲 『表層生活』
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コンピュータに精通した青年がサブリミナルテープを使って大衆を操作しようとする、芥川賞受賞作「表層生活」。環境保護派と開発派の板挾みになった広告会社社員が〈死の楽園〉づくりをねらう老僧に翻弄される「わが美しのポイズンヴィル」。テクノロジーの最前線で生命の捉えなおしに挑戦した二篇の意欲作。
102回(1989年下半期) 瀧澤美恵子 『ネコババのいる町で』
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わずか三歳で、ロスアンジェルスから一人で日本に送られた恵里子。実の母に捨てられたショックで一時的な失語症に陥ってしまうが、ある日、隣の「ネコババ」の家で突然言葉を取り戻す。生みの親よりも「本当の家族」となった祖母と叔母に育てられた多感な少女が観た人間模様を描く芥川賞受賞作。
101回(1989年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
100回(1988年下半期) 南木佳士 『ダイヤモンドダスト』
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火の山を望む高原の病院。そこで看護士の和夫は、様々な過去を背負う人々の死に立ち会ってゆく。病癒えず逝く者と見送る者、双方がほほえみの陰に最期の思いの丈を交わすとき、時間は結晶し、キラキラと輝き出す…。絶賛された芥川賞受賞作「ダイヤモンドダスト」の他、短篇三本、また巻末に加賀乙彦氏との対談を収録する。
100回(1988年下半期) 李良枝 『由煕』
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李良枝の『由煕』は、在日韓国人二世の著者が自らの経験を反映した芥川賞受賞作品です。この物語は、日本で育った主人公ユヒが韓国へ留学し、理想として抱いていた母国との現実のギャップに直面しながら、最終的に日本へと帰国するまでの過程を描いています。物語は、韓国での生活の厳しさや文化の違いを受け入れられなかったユヒの苦悩を中心に進行します。
ユヒの物語は、語り手である韓国の下宿先の家族の視点から語られており、彼女の心の葛藤や留学生活の中での孤独が印象的に描かれています。この構成は、ユヒ本人が直接的に登場せず、語り手を通じて彼女の姿を描くという独特の手法を用いています。
また、作中では、日本と韓国という二つの国の間でアイデンティティに苦しむ在日韓国人としての生き方が強調されています。ユヒは、韓国の文化や言葉、周囲の期待にうまく馴染めず、結局自分の居場所を見つけることができずに日本へ帰ることを決断します。この帰国の決断は、彼女にとってのアイデンティティの再確認であり、また異なる文化の中での自己の確立に失敗する苦痛を描いています。
全体として『由煕』は、アイデンティティの問題に焦点を当てた深い作品であり、読者に文化の違いやアイデンティティの揺らぎについて考えさせるものとなっています。
99回(1988年上半期) 新井満 『尋ね人の時間』
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都市に暮らす人々はいま、豊かな物質と過剰な情報の洪水の中で疲れきり、たしかな「自分」を見失っていはしないだろうか。「尋ね人の時間」は自分捜しの物語だ。失踪した鳥を探し求める鳥篭のように、失われたわれを求めて尋ねさすらうカメラマンと女子大生の哀しくも結ばれぬ関係―。現代人の心の空洞を描く芥川賞受賞作。
98回(1987年下半期) 池澤夏樹 『スティル・ライフ』
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遠いところへ、遠いところへ心を澄まして耳を澄まして、静かに、叙情をたたえてしなやかに―。清新な文体で、時空間を漂うように語りかける不思議な味。ニュー・ノヴェルの誕生。中央公論新人賞・芥川賞受賞作『スティル・ライフ』
98回(1987年下半期) 三浦清宏 『長男の出家』
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息子を禅僧への道に送り出した変哲もない家族の戸惑いと型破りな師匠の尼僧をユーモラスに描き、「現代の子捨て物語」と評された第98回芥川賞受賞の表題作ほか、「トンボ眼鏡」「黒い海水着」の2篇を収録。
97回(1987年上半期) 村田喜代子 『鍋の中』
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きれぎれの記憶を通し、思い出がよみがえる。老女の語りに、少女は初めて大人の秘密にふれ、生きることのはかなさと哀しみを知った―。のびやかな文章で、少年と少女と老女の、田舎の家でのひと夏の暮しを描き、家族を思い、人と人の絆を知る芥川賞受賞作品。
96回(1986年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
95回(1986年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
94回(1985年下半期) 米谷ふみ子 『過越しの祭』
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ユダヤ系アメリカ人の作家と結婚した道子、2人の息子=15歳のジョンと13歳の脳障害のケン。南カリフォルニヤの真青な冬の空と海、3週間前に施設に入れたケンが帰宅した週末、行儀の良いケンとは対照的な夫婦喧嘩―「遠来の客」。13年ぶりのニューヨーク滞在。夫の一族再会と血族の聖なる儀式への彼女の憂鬱―「過越しの祭」。自由を求めて渡米した道子の予期せぬ戦いを描く。
93回(1985年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
92回(1984年下半期) 木崎さと子 『青桐』
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乳癌にかかりながら、一切の医療をこばんで、叔母は逝った。その死を受容する姿を見つめるうち、姪の心にあった叔母へのわだかまりが消えてゆく。そして、精神の浄化をおぼえる彼女におとずれたものは。1本の青桐が繁る北陸の旧家での、滅びてゆく肉体と蘇る心の交叉を描く魂のドラマ。芥川賞受賞作品。
91回(1984年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
90回(1983年下半期) 笠原淳 『杢二の世界』
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根なし草のように飄然と生きる杢二が突如ビルの屋上から墜死した―社会から疎外された得体の知れない生を孕む杢二の突然の死から照射された、周囲の人間のいまにも墜ちそうな危うい生の実相を絶妙な筆致で描き、第90回芥川賞を受賞。
90回(1983年下半期) 高樹のぶ子 『光抱く友よ』
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大学教授を父親に持つ引っ込み思案の優等生・相馬涼子。アル中の母親をかかえ、早熟で、すでに女の倦怠感すら漂わせる不良少女・松尾勝美。17歳の2人の女子高生の出会いと別れを通して、初めて人生の「闇」に触れた少女の揺れ動く心を清冽に描く芥川賞受賞作。他に、母と娘の間に新しい信頼関係が育まれていく様を、娘の長すぎる髪を切るまでの日々のスケッチで綴る「揺れる髪」等2編。
89回(1983年上半期) - 該当作品なし
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88回(1982年下半期) 加藤幸子 『夢の壁』
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終戦前後、少女期を北京で過ごした佐智が見たことは、少女の心をひとまわり大きくした―戦争で母親を亡くした悲しみを背負いこむ中国人の少年と佐智との無垢な心の交流を描いた芥川賞受賞の「夢の壁」と、国民学校が消滅した夏の一日、SH学院の利発な少女・宋梅里との友情、両親と共に日本に帰る1947年の船中の出来事など、佐智の目と心を通して活写する「北京海棠の街」を収録。
88回(1982年下半期) 唐十郎 『佐川君からの手紙』
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「私の事件を映画化なさるそうですが、主演させてください」―ある日、サンテ刑務所から1通の手紙が舞い込んだ。犯行者との息を呑むような文通のあと、面会を求めて渡ったパリで、数々の奇怪な出来事と遭遇する。虚実の境をわたり、幻想のあやなしにあらがいながら、劇的想像力が照らし出す極限の「愛」―カニバリスム。1981年6月、パリで起った人肉事件の謎に迫る衝撃の話題作。芥川賞受賞。
87回(1982年上半期) - 該当作品なし
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86回(1981年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
85回(1981年上半期) 吉行理恵 『小さな貴婦人』
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死んでしまった猫〈雲〉を愛惜する夢想的で自閉的な中年女性〈私〉、「猫の殺人」という童話を書く年老いた女流詩人G、そして優しくも威厳に満ちた猫たち―。悪意に満ちた外界に傷つけられる繊細な存在の交感を詩的散文に結晶させた、優雅で奇妙な連作小説集。表題作で芥川賞を受賞。
84回(1980年下半期) 尾辻克彦 『父が消えた』
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お墓というのは、家の中でいうとお風呂場みたいだ―。父の遺骨を納める墓地を見に出かけた「私」の目に映るもの、頭をよぎることどもの間に、父や家族と過ごした時代の思い出が滑り込む、第84回芥川賞受賞作「父が消えた」。その他「星に触わる」「お湯の音」など、初期作品5篇を収録した傑作短篇集。
83回(1980年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
82回(1979年下半期) 森禮子 『モッキングバードのいる町』
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森禮子の『モッキングバードのいる町』は、アメリカ中部の田舎町を舞台に、日本から移住してきた女性たちの夢や孤独、愛を描いた物語です。この作品では、退役軍人の夫と暮らす圭子が年を重ねる中で抱く望郷の念、若い男性との関係に苦悩するスウ、教育熱心すぎるゆえに子殺しの罪を犯したジューンなど、様々な日本人女性たちが登場します。彼女たちの経験を通じて、日本人の心の深い部分に触れ、異文化の中でのアイデンティティの揺らぎを描いています。この作品は、芥川賞を受賞し、日本人としての生き方を問い直す内容となっています。
『モッキングバードのいる町』には、他にも『離島狂騒曲』『遊園地暮景』『風を捉える』の3編が収録されており、いずれも人間の孤独やアイデンティティの問題に深く切り込んだ作品となっています。
この小説は、異国で生きる日本人女性たちの葛藤をリアルに描き出し、読者に人間の内面の複雑さを感じさせる一冊です。
81回(1979年上半期) 重兼芳子 『やまあいの煙』
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『やまあいの煙』は、重兼芳子が1979年に発表し、第81回芥川賞を受賞した作品です。この物語は火葬場で働く主人公と、その職業に対する偏見や葛藤を描いた短編小説で、社会的テーマを深く扱っています。
主人公は火葬場で遺体を火葬に付す仕事に従事し、誇りを持ちながらも周囲の偏見や恋人との葛藤に苦しみます。火葬という避けられがちな仕事に真摯に向き合いながらも、恋人には職業を打ち明けられず孤独を感じています。このように、職業に対する誇りと社会的な偏見との間で揺れる姿が繊細に描かれています。
物語全体を通じて、生と死に対する哲学的な問いや偏見への挑戦が強調されています。主人公が遺体を扱う仕事に見出す意味や、その仕事に対する誇りと無理解が彼に与える影響が深く掘り下げられています。また、火葬場の情景や遺族に対する敬意が、死に対する真摯な態度を浮き彫りにしています。
81回(1979年上半期) 青野聰 『愚者の夜』
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『愚者の夜』は、青野聰が1979年に発表し、第81回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、日本人男性がインド、中東、ヨーロッパを放浪し、オランダ人の妻とともに帰国するという内容で、異文化間での葛藤や自由に対する疲労感を描いています。
主人公は、自由であることに疲れ、妻の奔放さにも振り回されながら、日本に帰ることで安定を求めますが、それも容易には叶わず、夫婦生活は何度も危機を迎えます。この過程で描かれるのは、自由と孤独、そしてそれに伴う寂しさです。また、主人公が「日本社会に押し込めようとする自分」との葛藤が繊細に描かれており、その結果としての「マッチョイズム」も含めて、彼の複雑な心情が表現されています。
この作品は、自由と束縛、異文化間の摩擦、個人のアイデンティティといったテーマを扱っており、特に1970年代の日本における社会的背景を反映しています。同時期に芥川賞を競った村上春樹の『風の歌を聴け』と比べても、ニヒリズムの不徹底さが評価された一方で、時代の求める「安定」への渇望が評価されたと考えられます。
80回(1978年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
79回(1978年上半期) 高橋揆一郎 『伸予』
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[BOOKデータベースより]
「わたしはね、善ちゃんのお嫁さんになりたかったんだ、これでも」女学校を出たばかりの教師・伸予は、教え子で中学三年生の善吉に恋心を抱いていた。卒業後は交流が途絶え、伸予は許嫁との結婚と死別を経験し、最近は趣味に没頭する日々を送っていたが、教師仲間からの情報で善吉の消息を知り、再会を果たす。中年になってなお、少女のような純粋さを保っている伸予と、どこか冷めた雰囲気を漂わせている善吉。二度目の逢瀬でついにふたりは結ばれるが―。第79回芥川賞を受賞した表題作のほか、第37回文學界新人賞受賞作「ぽぷらと軍神」、「清吉の暦」の全三編を収録。
79回(1978年上半期) 高橋三千綱 『九月の空』
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『九月の空』は、高橋三千綱が1978年に発表し、第79回芥川賞を受賞した青春小説です。物語は、剣道部に所属する高校生の主人公・勇が、青春期特有の葛藤や成長を通じて自分を見つめ直す様子を描いています。
物語の中心には、剣道へのひたむきな情熱と、それに伴う競技の厳しさ、家族との関係、そして異性への興味が描かれています。勇は剣道部での厳しい練習を通じて、自己を見つめ直す機会を得ますが、一方で自分の将来や、自分が置かれている環境に対する漠然とした不安も抱えています。彼の心の葛藤は、思春期ならではの反発や孤独、そして性への目覚めといった要素と絡み合いながら展開されます。
また、物語は彼の友人や恋人との関係も描き、青春期における友情や恋愛の複雑さを表現しています。彼が経験する剣道の試合や合宿での出来事は、彼自身の成長を促す重要な要素として描かれており、彼が直面する挫折や喜びを通じて、一人の若者としての成長がリアルに描かれています。
全体として、『九月の空』は青春の儚さと希望、そして大人になることへの期待と不安を描いた作品です。
78回(1977年下半期) 宮本輝 『螢川』
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[BOOKデータベースより]
父が脳溢血で倒れた。母は働きに出なければならず、14歳の竜夫は父の旧友に金を借りに行く。そんな竜夫の唯一の楽しみは、冬の長い年にだけ見られるという螢の大群を、ほのかに思いを寄せる英子と見に行くこと。ある日、父の容体が急変したという報せを受け、竜夫は病院へ駆けつけるが―。季節が移ろいゆく富山を舞台に、少年が螢の大群の中に見たものとは。芥川賞を受賞した表題作のほか、太宰治賞受賞作「泥の河」を収録。
78回(1977年下半期) 高城修三 『榧の木祭り』
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『榧の木祭り』は、高城修三が1977年に発表し、第78回芥川賞を受賞した作品です。物語は、隔離された山村を舞台に、そこで行われる「榧の木祭り」という風習を描いています。この祭りは村の存続のための口減らしとされ、社会から役に立たないとされた人々を追放すること、また外の世界で活躍しうる可能性を持つ人を村に残すための生贄とするという、閉鎖的で過酷な慣習を描いています【62】。
この物語では、村人たちは伝統を守るために「弱者」と「出る杭」を排除し、現状維持を続けることを目的としています。このような風習を通じて、古くからの因習や閉鎖的な社会の問題が浮き彫りにされており、現代にも通じるテーマを持っていると評価されています。土俗的な雰囲気と、ムラ社会の絶対的な運命が描かれ、読者に強い印象を与える作品となっています【62】【63】。
作品全体として、伝統と革新の相克、社会の中での個人の位置づけについて問いかける内容が含まれています。高城修三は、この作品を通して、伝統に縛られた社会の閉塞感と、その中で生きる人々の苦悩をリアルに描き出しました。
77回(1977年上半期) 三田誠広 『僕って何』
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[BOOKデータベースより]
母親に連れられて、田舎から東京の大学にやってきた僕。この広い、知っている人もいない東京で、僕はどうやって生きていくんだろう―。大学ではいつの間にかセクトの争いや内ゲバに巻きこまれたり、年上の女性と同棲したりしている。僕って一体なんなのだろう―。あふれるユーモアと鋭い諷刺で現代を描いた青春文学の傑作。芥川賞受賞作。
77回(1977年上半期) 池田満寿夫 『エーゲ海に捧ぐ』
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[BOOKデータベースより]
サンフランシスコのアトリエにいる彫刻家を責め立てる、日本の妻からの長い国際電話。彫刻家の前には二人の白人女性が…。卓越したシチュエーションと透明なサスペンスで第七十七回芥川賞に輝いた表題作ほか二篇を含む、衝撃の愛と性の作品集。
76回(1976年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
75回(1976年上半期) 村上龍 『限りなく透明に近いブルー』
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[BOOKデータベースより]
米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめく―。著者の原点であり、発表以来ベストセラーとして読み継がれてきた、永遠の文学の金字塔が新装版に!群像新人賞、芥川賞受賞のデビュー作。
74回(1975年下半期) 中上健次 『岬』
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[日販商品データベースより]
郷里・紀州を舞台に、逃れがたい血のしがらみに閉じ込められた一人の青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみを鮮烈な文体で描いた芥川賞受賞作。「黄金比の朝」「火宅」「浄徳寺ツアー」「岬」収録。
74回(1975年下半期) 岡松和夫 『志賀島』
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終戦の年、北九州の地で国民学校の6年生だった主人公は、志賀島に海洋訓練に行き、軍隊の苛酷さの片鱗をかいま見る―激動の時代の流れにほんろうされるひよわい少年たちを描いて第74回芥川賞を受賞した表題作など5篇。戦中戦後の青春のひとつのかたちを見事に的確に描破した記念碑的な作品集。
73回(1975年上半期) 林京子 『祭りの場』
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『祭りの場』は、林京子が1975年に発表し、第73回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、長崎での原爆被爆体験をもとに、戦後の人々の暮らしや内面の葛藤を描いています。作者自身が被爆者であり、その個人的な経験が作品の根底に流れています。
物語は、原爆の惨禍から生還した人々が抱える心の傷や、戦後の生活での再生を描き、被爆者としての記憶を淡々と、しかし深い感情を込めて語っています。その描写は非常に抑制されており、直接的な訴えかけではなく、静かな語り口で原爆の影響を読者に伝えています。この抑制された表現が、逆に読者に強い衝撃と感銘を与えるものとなっています。
『祭りの場』は、ただの戦争体験記ではなく、人間の尊厳や苦しみ、そして再生への希望をテーマにしています。作中では、アメリカ側の原爆に対する冷淡な視点が描かれ、被爆者としての林京子の視点からその矛盾が浮き彫りにされます。
72回(1974年下半期) 日野啓三 『あの夕陽』
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『あの夕陽』は、日野啓三が1974年に発表し、第72回芥川賞を受賞した短編集の中の一編です。物語は、主人公が韓国で特派員として過ごした経験を基に、韓国人女性との出会いによって自分と妻との生活が侵食されていく様子を描いています。夕陽が照らし出す中で、男女の心の暗い淵が浮かび上がるように描かれており、虚無感と再生の物語として読むことができます。
主人公は、少年時代に敗戦によって夢が破れた経験を持ち、それ以降人生に対して投げやりな態度を取るようになります。成人後は新聞記者として働き、妻との日常生活も坦々としたものでしたが、ソウルで知り合った李という韓国人女性の存在が心の中に深く残り続けます。彼の内なる葛藤や、生活の中で感じる虚無感が夕陽の描写を通じて際立たせられています。
本作品は、静かな語り口でありながらも人間関係の複雑さを浮き彫りにし、読者に深い感銘を与えます。特に、抑制された表現の中に隠された感情の揺れが巧みに描かれています。他の収録作として、『野の果て』『無人地帯』『対岸』『遠い陸橋』があり、これらもまた人間の心の深層を探る内容となっています。
72回(1974年下半期) 阪田寛夫 『土の器』
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『土の器』は、阪田寛夫が1974年に発表し、第72回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、八十歳の母が肩の骨を折りながらも、礼拝でオルガンを弾き続ける姿を描き、その母を支え続けた息子の視点から描かれた物語です。タイトルの「土の器」は、人間の脆さと神から与えられた魂の象徴として用いられており、作品全体を通して人間の持つ弱さと力強さが描かれています。
物語の中心となるのは、母の強い信仰心と、その信仰に支えられながら日々を生きる姿です。彼女が礼拝のために必死にオルガンを弾き続ける姿には、年齢や身体の限界を超えた精神的な強さが表れています。一方、彼女を支える息子は、母の生き様を見つめながら、自らの生き方や信仰についても内省を深めていきます。この過程で、彼の心にある愛情や尊敬の念が丁寧に描かれています。
『土の器』は、単なる親子の物語ではなく、信仰、愛、家族の絆、人間の尊厳といったテーマを深く掘り下げた作品です。特に、礼拝の場面を通して、母の魂がどのように神と結びついているかが描かれており、その精神性が読者に強い印象を与えます。また、阪田寛夫の繊細な筆致によって、母と息子の間にある微妙な感情の変化が巧みに表現されています。
71回(1974年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
70回(1973年下半期) 野呂邦暢 『草のつるぎ』
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「言葉の風景画家」と称される著者が、硬質な透明感と静謐さの漂う筆致で描く青春の焦燥。生の実感を求め自衛隊に入隊した青年の、大地と草と照りつける太陽に溶け合う訓練の日々を淡々と綴った芥川賞受賞作「草のつるぎ」
70回(1973年下半期) 森敦 『月山』
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古来、死者の行く「あの世の山」とされた月山。「わたし」は、「この世」と隔絶されたような、雪深い山間の破れ寺でひと冬を過ごす。そこには、現世とも幽界ともさだかならぬ村人たちの不思議な世界が広がっていた。年を経るごとに名作との呼び声が高まる芥川賞受賞の表題作ほか、「天沼」「光陰」など6篇を収録。
69回(1973年上半期) 三木卓 『鶸』
この作品の情報はありません。
68回(1972年下半期) 山本道子 『ベティさんの庭』
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『ベティさんの庭』は、山本道子による短編集で、1972年に第68回芥川賞を受賞した作品です。この作品の表題作「ベティさんの庭」では、日本から異国に嫁いだ戦争花嫁・ベティさんの心情が描かれています。彼女は二十年にわたる異国での生活の中で、深い望郷の念と、自分の存在がどこにも根付かない感覚に苦しむ様子が繊細に描写されています。「樹も草も鳥も風も空も、みんなみんな、わたしのものではない」という言葉が象徴するように、ベティさんは新しい土地で居場所を見つけられない孤独感にさいなまれています。
短編集には、表題作のほかにも『魔法』『雨の椅子』『老人の鴨』『わがままな幽霊』などが収録されており、それぞれが異なるテーマを持ちながらも、人間の心の奥にある孤独や葛藤を静謐なタッチで描いています。特に「魔法」や「わがままな幽霊」などは、独特の幻想的な雰囲気を持ち、読者に深い印象を残す作品です。
『ベティさんの庭』は、異国で生きる女性の心の葛藤や、文化の違いに直面する中での孤独感を巧みに描き出し、読者に深い共感と考えさせる力を持つ作品です。山本道子の筆致は、華麗なイメージとともに、静かで深い感情を表現しており、この短編集全体を通して、彼女が描く独自の文学空間に引き込まれます。
68回(1972年下半期) 郷静子 『れくいえむ』
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『れくいえむ』は、郷静子が1972年に発表し、第68回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、太平洋戦争下で「立派な軍国少女」になろうと努める女学生・大泉節子の青春を描いています。彼女は激しい空襲に耐えながら、「お国のため、戦争に勝つため」に生き続けますが、その道は愛や美をも犠牲にしてしまう結果となります。そのひたむきな純粋さと、それゆえの悲劇が、戦時中の狂気を浮き彫りにしています。
物語の背景には、戦時下の厳しい社会的環境があり、節子は親や学校から「素直ないい子」としての期待に応えようと懸命に生きます。しかし、その「素直さ」が彼女を追い詰め、最終的に悲しい結末を選ばざるを得ない状況に追いやります。こうした描写を通して、郷静子は戦争が人々の生き方や価値観をどれほど歪めるのかを描き出しており、読者に深い感銘を与えます。
67回(1972年上半期) 畑山博 『いつか汽笛を鳴らして』
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『いつか汽笛を鳴らして』は、畑山博による短編集で、1972年に第67回芥川賞を受賞した作品です。この作品は、25歳の工員である主人公の肉体的劣等感をテーマに描かれた物語です。彼の内面的な葛藤や社会的な孤立感が、独特のスタイルで描写されており、読者に強い感銘を与えています。
67回(1972年上半期) 宮原昭夫 『誰かが触った』
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『誰かが触った』は、宮原昭夫による1972年の芥川賞受賞作品です。この小説は、ハンセン病療養所の特別学級に赴任した女性教師・妙子を中心に、病気に対する偏見や差別、そしてそこで学ぶ子どもたちとの関係を描いています。物語の舞台は、戦後のハンセン病患者が隔離された療養所であり、彼らが社会から孤立する中で感じる不安、苦しみ、そして時折見える喜びや希望が描かれています。
妙子は、生徒たちの純粋な希望や夢と向き合いながらも、自らの中にある偏見や恐れと闘います。物語の中で、妙子が握手を求められたとき、手を差し出すことに躊躇してしまう場面が象徴的です。この場面は、彼女の内面の葛藤と、偏見の根深さを如実に表現しています。また、彼女と子どもたちが触れ合うことで生まれる温かさと、そこに隠された痛みが、物語全体を通じて深く描かれています。
『誰かが触った』は、偏見や差別を越えて人々が心を通わせる可能性をテーマにしており、そのメッセージ性が高く評価されました。物語の背景にあるのは、戦後の日本社会における病気への恐れと無理解ですが、その中で見つけた希望や連帯感が、読者に強い感銘を与えます。宮原の繊細な筆致は、キャラクターの内面の苦悩を丁寧に描き、読者に彼らの人間性を深く感じさせます。
66回(1971年下半期) 李恢成 『砧をうつ女』
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『砧をうつ女』は、李恢成が1971年に発表し、第66回芥川賞を受賞した作品です。この物語は、貧しいながらも力強く生きた母の姿を、主人公である息子が追憶する形式で描かれています。物語は、在日朝鮮人の家庭を舞台に、息子が母の生涯に対する深い尊敬と愛惜を感じながら、戦争と社会的な苦境の中でたくましく生き抜いた母の姿を思い起こす内容です。
母親の姿は非常に清冽な文体で描かれており、特に彼女が日々の困難を乗り越えていく強さや、家族への献身が強調されています。この作品は、母性というテーマをイデアルな形で描き出し、母親像が一種の普遍的な象徴として扱われています。その描写は、日本社会で生きる在日朝鮮人としての立場や、そこに伴う孤立感と希望を反映しています。
『砧をうつ女』は、「人面の大岩」といった他の短編作品とともに収録されており、それぞれが家族の肖像を描くという共通のテーマを持っています。特に「人面の大岩」は、母親に対する追憶と並んで父親の一生を描いており、家族それぞれの人生が抱える喜怒哀楽をリアルに表現しています。
66回(1971年下半期) 東峰夫 『オキナワの少年』
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『オキナワの少年』は、東峰夫が1971年に発表し、第66回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、戦後の沖縄を背景に、無垢な少年の眼を通じて沖縄の現実を描いた物語で、戦争後の混乱期における沖縄社会の痛みと哀愁が色濃く表現されています。
物語の中心にあるのは、米軍占領下の沖縄で、米兵相手に風俗店を営む家で育った少年の視点です。彼はドルで買い物をし、パスポートが必要な沖縄の日常を生きる中で、成長とともに性への目覚めや社会の矛盾に直面します。この描写を通じて、少年の曇りない眼が捉えた沖縄の姿が浮き彫りにされ、読者に強い印象を与えます。
『オキナワの少年』には、表題作の他にも「島でのさようなら」や「ちゅらかあぎ」などの作品が収録されています。「島でのさようなら」では、集団就職で本土に向かう少年の胸中が描かれており、沖縄から離れることへの不安と希望が交錯する様子が細やかに表現されています。また、「ちゅらかあぎ」では、住み込み工員や浮浪者、日雇い労働者として転々とする沖縄出身の少年が、都市の底辺で感じる孤独と憧れを描いています。
65回(1971年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
64回(1970年下半期) 古井由吉 『杳子』
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『杳子』は、古井由吉が1970年に発表し、第64回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、内向的な主人公「杳子」と彼女と関わる「彼」を通して、孤独と内面世界の探求を描いています。杳子は、精神的な不安定さやアイデンティティの喪失に悩み、外部の世界とのつながりを持とうとしないまま、内面的な葛藤に苦しみ続けます。
物語では、杳子が自分の過去や家族との関係に悩み、特に結婚し社会復帰を果たした姉への強い嫌悪感を抱いています。この姉との比較から、杳子のアイデンティティの問題が浮き彫りにされます。また、杳子と「彼」との関係も描かれ、「彼」は杳子の世界に巻き込まれ、境界が崩れていく様子が描かれています。彼女の病は「ボーダーライン・パーソナリティ障害」に近いとされ、彼女と関わる「彼」も次第に彼女の内向的な世界に引きずり込まれていきます。
作品の中では、「健康」と「病気」、「女」と「少女」という二項対立が杳子の人格の中で揺れ動きます。彼女の性に対する態度は一貫しておらず、「女」としての自己を受け入れようとする一方で、それを拒み「少女」であり続けようとする両義的な姿勢が見られます。この揺れ動きが物語全体において、杳子の混沌とした内面を象徴する要素として機能しています。
『杳子』は、主人公の内面の揺れと、そこから生まれる孤独と混沌を静謐に描き出しており、精神的な不安定さや自我の葛藤に苦しむ姿を文学的に表現した作品です。
63回(1970年上半期) 吉田知子 『無明長夜』
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“御本山”の黒い森をみつめて、白い闇の道を歩いた女の20年……。一種底の知れない、暗く混沌とした世界の中で、病める魂の咆哮を聞く芥川賞受賞作『無明長夜』。“捨てる”ことを根源に、自らの道を開こうとした著者の、戦後の出発を語る『豊原』。ほかに『寓話』『終りのない夜』など、新しい世代の世界とイメージを持って、多様な才能を遺憾なく発揮した作品群。ほか『静かな夏』『生きものたち』『わたしの恋の物語』全7編を収める。
63回(1970年上半期) 古山高麗雄 『プレオー8の夜明け』
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名もなき兵士たちの日常を描いた芥川賞受賞の戦争文学―第二次大戦後、戦犯容疑でサイゴン刑務所に抑留された日本兵の鬱屈した日々をユーモアたっぷりに描いた第63回芥川賞受賞作「プレオー8の夜明け」。他に処女作「墓地で」から、晩年の名品「セミの追憶」(第21回川端康成文学賞受賞作)まで、戦争の記憶をつむぐ短編十六作を収録。戦後七十年を超え、戦下の記憶は風化するにまかされる。三十年にわたる筆者の貴重な営みを通じ、名もなき兵士たちは、何を考え死んでゆき、生き残った者たちは何を思うのか―今改めてその意味を問いかける珠玉の“戦争文学短編集”。
62回(1969年下半期) 清岡卓行 『アカシヤの大連』
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美しい港町、アカシヤ香る大連。そこに生れ育った彼は敗戦とともに故郷を喪失した。心に巣喰う癒し難い欠落感、平穏な日々の只中で埋めることのできない空洞。青春、憂鬱、愛、死。果てない郷愁を篭めて、青春の大連を清冽に描く芥川賞受賞作。
61回(1969年上半期) 庄司薫 『赤頭巾ちゃん気をつけて』
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学生運動の煽りを受け、東大入試が中止になるという災難に見舞われた日比谷高校三年の薫くん。そのうえ愛犬が死に、幼馴染の由美と絶交し、踏んだり蹴ったりの一日がスタートするが―。真の知性とは何か。戦後民主主義はどこまで到達できるのか。青年の眼で、現代日本に通底する価値観の揺らぎを直視し、今なお斬新な文体による青春小説の最高傑作。
61回(1969年上半期) 田久保英夫 『深い河』
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朝鮮戦争のまっただ中、学生の僕は、夏期休暇の間、雲仙の米軍キャンプで、《馬丁》としてアルバイトしていた。病気の馬の検査をするために街へ下りて行った獣医が帰ってこず、馬と一緒に置き去りにされた僕がとった行動は……? 平和な日本の中に潜む戦争の暗影とその殺戮の強烈な臭気とを、青春の悪夢のような体験を通して描き、注目をあつめて話題となった芥川賞受賞作。ほかに『遠い夏から』『水いらず』『樹蔭』の3編を収録。
60回(1968年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
59回(1968年上半期) 丸谷才一 『年の残り』
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[日販商品データベースより]
老い、病い、死という人生不可知の世界を結実させた芥川賞受賞作ほか、人生のひだを感じさせる傑作短篇集。「年の残り」「川のない街で」「男ざかり」「思想と無思想の間」収録。
59回(1968年上半期) 大庭みな子 『三匹の蟹』
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異国に暮らす由梨は、夫と自分双方の浮気相手が集うホームパーティーに参加する気になれず、ひとりで外出してしまう。遊園地の民芸館で知り合ったアメリカ男に誘われ、海辺のドライブについて行き、そこで男は、赤いネオンが点滅している宿「三匹の蟹」へ行こうと誘うのだった。果てしない存在の孤独感、そして愛の倦怠が引き起こす生の崩壊を乾いた筆致で描き出した「三匹の蟹」は第59回芥川賞を受賞。「三匹の蟹」以前に執筆された日本人女性留学生の青春への決別を描いた連作「構図のない絵」「虹と浮橋」も併録。
58回(1967年下半期) 柏原兵三 『徳山道助の帰郷』
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大分市の外れに生まれた徳山道助は、立派な軍人となって故郷の誇りであった。彼の母の33回忌を機に、齢74にして久々に帰郷を決心した。だが、精神のバランスを崩した妻との生活は渇いており、経済的にも辛い。落ちぶれた姿を見られたくない道助は、帰郷を渋るが……。明治生まれの気骨ある主人公が戦後の退廃を嘆き、軍人としての矜持を持ったまま、余生を生き抜く姿を丹念に描いた芥川賞受賞作。ほか「殉愛」「クラクフまで」「朗読会」「ピクニック」を収録。
57回(1967年上半期) 大城立裕 『カクテル・パーティー』
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米国統治下の沖縄で日本人、沖縄人、中国人、米国人の四人が繰り広げる親善パーティー。そのとき米兵による高校生レイプ事件が起こり、国際親善の欺瞞が暴露されていく―。沖縄初の芥川賞受賞の表題作のほか、「亀甲墓」「棒兵隊」「ニライカナイの街」そして日本語版未発表の「戯曲 カクテル・パーティー」をふくむ傑作短編全五編を収録。
56回(1966年下半期) 丸山健二 『夏の流れ』
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平凡な家庭を持つ刑務官の平穏な日常と、死を目前にした死刑囚の非日常を対比させ、死刑執行日に到るまでの担当刑務官、死刑囚の心の動きを緊迫感のある会話と硬質な文体で簡潔に綴る芥川賞受賞作「夏の流れ」。
55回(1966年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
54回(1965年下半期) 高井有一 『北の河』
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昭和20年、すでに夫を喪い、家も戦火に焼かれてしまった母子が、遠縁を頼って東北の寒村に身を寄せる。だが、そこは安住の地ではなかった。頼るべき知己もおらず、終戦後は都会に戻るという希望も断ち切られ、迫りくる厳しい冬を前に、母は自ら死を選ぶ…。ノンフィクション作品のような感情を抑えた筆致が、かえって読む人の想像を掻き立てる。第54回芥川賞に輝いた表題作のほか、やはり身近な人の死をテーマにした「夏の日の影」「霧の湧く谷」、大学の二部に通う学生たちの葛藤を描いた「浅い眠りの夜」の三篇を収録。
53回(1965年上半期) 津村節子 『玩具』
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『玩具』は、津村節子が1965年に発表し、第53回芥川賞を受賞した作品です。この短編小説は、売れない同人誌作家である夫と、その夫に尽くすも報われない妻との関係を描いた物語です。夫は小動物や趣味に執着し、妻のことを顧みることなく自分の世界に閉じこもっています。妻は夫に対して深い愛情を持ちながらも、その愛情が報われることはありません。二人の関係は常に破局寸前でありながらも、奇妙なバランスを保ちながら続いていきます。
物語は、夫婦の間にある微妙な心理的距離感を細やかに描写し、愛と孤独、そして人間関係のもろさを浮き彫りにしています。妻は、夫の執着する金魚や小動物に嫉妬しながらも、その健気な姿が描かれ、読者に共感を与えます。一方で、夫は何かに取り憑かれたように自分の趣味に没頭し、妻の存在を無視することで夫婦の関係を保とうとします。このような夫婦の関係は、時にユーモラスであり、時に切ないものとして描かれています。
『玩具』は、夫婦の心理的な葛藤や孤独を描きつつ、社会の中で自分の居場所を見つけようとする人々の姿を浮かび上がらせた作品です。その描写は丹念で質実なものであり、津村節子の文学的才能が光る一冊です。夫婦関係の機微を通して、愛とは何か、人と人との繋がりとは何かを問いかける内容となっています。
52回(1964年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
51回(1964年上半期) 柴田翔 『されどわれらが日々──』
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1955年、共産党第6回全国協議会の決定で山村工作隊は解体されることとなった。私たちはいったい何を信じたらいいのだろうか―「六全協」のあとの虚無感の漂う時代の中で、出会い、別れ、闘争、裏切り、死を経験しながらも懸命に生きる男女を描き、60~70年代の若者のバイブルとなった青春文学の傑作。
50回(1963年下半期) 田辺聖子 『感傷旅行センチメンタル・ジャーニィ』
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『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』は、田辺聖子が1963年に発表し、第50回芥川賞を受賞した作品です。この物語は、30代半ばのキャリアウーマンである有似子(ゆいこ)が、共産党員の男性ケイに心惹かれながらも、彼との恋愛が満たされないまま終わる過程を描いています。ドリス・デイのジャズナンバー「Sentimental Journey」にインスピレーションを得たタイトルは、一見甘い恋愛物語のように思わせつつも、内容的には女性の自立と失望、そして愛への渇望がリアルに描かれています。
主人公の有似子は、自らの恋愛感情に振り回されるものの、その中にある強い自己認識と孤独を抱え続けます。物語は、彼女がケイとの関係を通じて自身の中の矛盾や、男性との力関係に直面しながらも、自分の生き方を見つめ直す姿を描き出しています。有似子の感情は、失望や焦燥感を通して複雑に表現されており、当時の日本社会における女性の置かれた立場を鋭く映し出しています。
また、作中には他にも短編が収録されており、それぞれが異なるテーマで人間関係や社会的な葛藤を描いています。例えば、『大阪無宿』ではライバルの家庭に心を乱される男の姿が描かれ、『喪服記』では浮気を重ねる夫の言い逃れが取り上げられています。これらの作品は、男性中心の社会構造や個人の心の弱さを風刺的に描き、読者に深い感銘を与えています。
『感傷旅行』は、田辺聖子の筆致を通して、女性の繊細な感情や自己発見のプロセスをリアルに描いた作品です。恋愛というテーマを通じて、人間の心の複雑さと女性の自立を探る内容は、現代においても共感できる普遍的なものとして評価されています。
49回(1963年上半期) 後藤紀一 『少年の橋』
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『少年の橋』は、後藤紀一が1963年に発表し、第49回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、少年の目を通して戦後日本の家庭の崩壊や社会の変化を描いた物語です。物語の中心には、中学三年生の主人公・草兵が登場し、父親と母親が別居する中で、自転車に乗って父の家と母の家を行き来する日々が描かれています。
物語の舞台となる橋は、物理的な意味での川を渡るだけでなく、家庭と外の世界、あるいは少年が抱える感情の隔たりを象徴しています。草兵は、父が住む街の川の向こう岸に向かうたびに、自身の中にある複雑な感情と向き合います。父親は画家であり、その自由奔放さが少年に対してどこか遠い存在として映り、母親との生活の中で感じる不安や孤独感が色濃く描かれています。
この作品は、戦後の社会変化の中で家庭が崩壊していく様子を、リアルで混沌とした描写を通して表現しています。特に、安保反対のデモ行進が描かれるシーンでは、時代の不安定さや社会の動揺が少年の視点から強く浮き彫りにされています。このような混沌とした状況の中で、草兵が見つめる大人たちの姿には、文化人としての矛盾や家庭の崩壊が表現されており、読後には独特の余韻を残す作品となっています。
49回(1963年上半期) 河野多惠子 『蟹』
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外房海岸を舞台に、小学一年生の甥と蟹を探し求めて波打ち際で戯れる中年女性の屈折した心理を描き、第49回芥川賞を受賞した「蟹」。ほかに、知人の子供や道端で遊ぶ子供に異常な関心を示す、子供のない女性の内面を掘り下げた「幼児狩り」。夫婦交換による男女の愛の生態を捉えた「夜を往く」「劇場」など、日常に潜む欺瞞を剥ぎ取り、その“歪んだ愛のカタチ”から、よりリアルな人間性の抽出を試みた筆者初期の短篇6作を収録。
48回(1962年下半期) - 該当作品なし
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47回(1962年上半期) 川村晃 『美談の出発』
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『美談の出発』は、川村晃が1962年に発表し、第47回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、血の繋がりのない家族の形成とその中での葛藤を描いた物語で、社会からの視線や、主人公の内面的な揺れがリアルに描かれています。
物語の主人公は、生活に苦しむ中で血縁のない子どもたちを育てる決断をします。この選択は、彼にとっての大きな挑戦であり、子どもたちとの関係の中で自身の限界と向き合うことになります。主人公は、その状況に複雑な感情を抱きながらも、社会的には「美談」として語られることで、自己の選択に対する皮肉な感情を抱えています。
46回(1961年下半期) 宇能鴻一郎 『鯨神』
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『鯨神』は、宇能鴻一郎が1961年に発表し、第46回芥川賞を受賞した作品です。この物語は、明治時代初期の長崎県平戸島を舞台に、鯨に家族を殺された若い漁師の復讐の物語です。
物語の主人公は、家族を巨大な鯨に殺された若い漁師で、彼はその鯨を「鯨神」として恐れ、敬いながらも復讐を誓います。彼の心には、鯨神への畏怖と憎しみ、そして失った家族への哀惜が入り混じり、その感情が彼の行動を支配していきます。作品は、この漁師が鯨神との闘いに挑む姿を通じて、人間と自然の対峙、そして宿命的な戦いを描き出しています。
45回(1961年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
44回(1960年下半期) 三浦哲郎 『忍ぶ川』
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兄姉は自殺・失踪し、暗い血の流れに戦きながらも、強いてたくましく生き抜こうとする大学生の“私”が小料理屋につとめる哀しい宿命の娘志乃にめぐり遭い、いたましい過去を労りあって結ばれる純愛の譜『忍ぶ川』。読むたびに心の中を清冽な水が流れるような甘美な流露感をたたえた名作である。他に続編ともいうべき『初夜』『帰郷』『團樂』など6編を収める。
43回(1960年上半期) 北杜夫 『夜と霧の隅で』
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『夜と霧の隅で』は、北杜夫が1960年に発表し、第43回芥川賞を受賞した中編小説です。この作品は、第二次世界大戦末期のドイツの精神病院を舞台に、ナチスによる安死術(安楽死)政策に抵抗する精神科医たちの苦悩と苦闘を描いています。
物語は、ナチス政権下での不治の精神病患者に対する抹殺命令に直面した精神科医たちが、患者を救おうと奮闘する姿を描いています。彼らは命の価値と医師としての倫理の間で葛藤し、極限状況での人間の不安や矛盾に立ち向かいます。特に、絶望的な状況の中で行われる治療や脳手術の描写は、医師たちの精神的な苦悩を生々しく伝え、読者に強い印象を与えます。
42回(1959年下半期) - 該当作品なし
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41回(1959年上半期) 斯波四郎 『山塔』
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40回(1958年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
39回(1958年上半期) 大江健三郎 『飼育』
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『飼育』は、大江健三郎の代表的な短編小説で、1958年に発表され、翌年に芥川賞を受賞しました。この作品は、戦後の山間の村に墜落した米軍の黒人兵と、その村の少年たちとの関係を描いています。
物語は、米軍機が撃墜されて黒人兵が村に落下してきたところから始まります。村の大人たちは黒人兵を監禁し、子供たちはその黒人兵を「飼育」する役目を与えられます。当初、黒人兵は異質な存在として恐れられ、動物のように扱われますが、次第に少年と黒人兵の間に人間的な絆が芽生えます。しかし、黒人兵の移送が決まると事態は一変します。
『飼育』は、人種差別や戦争の影響、人間の成長をテーマにした深い作品であり、大江健三郎の初期の代表作として、戦後日本の社会に潜む矛盾や人間の内面の複雑さを浮き彫りにしています。作品の舞台となる村の閉鎖的な環境と、そこで起こる異文化との出会いが、少年の視点を通じて鮮烈に描かれています。この作品は、大江のその後の作家活動に大きな影響を与え、ノーベル文学賞受賞作家としての評価を支える礎となっています。
38回(1957年下半期) 開高健 『裸の王様』
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無口で神経質そうな少年・太郎が、ぼくの画塾へと連れられてきた。太郎の父は画材会社を経営しているが、彼が描くのは電車やチューリップの絵ばかり。人間が1枚も描かれていないスケッチブックに彼の孤独を見たぼくは…。閉ざされた少年の心にそっとわけいり、いきいきとした感情を引き出すまでを緻密に描いた芥川賞受賞作「裸の王様」ほか3編。世間を真摯なまなざしで切り取った、行動する作家・開高健の初期傑作集。
37回(1957年上半期) 菊村到 『硫黄島』
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2万人以上の日本兵が亡くなった硫黄島で辛くも生き残り、終戦後も3年以上穴居生活を続けた片桐正俊。「投降時に岩穴に隠した日記を取りに行けることになったので、そのことを記事にしてほしい」と新聞記者である“私”に依頼する。だが、片桐はせっかく再上陸できた硫黄島で、自死してしまう。その原因を探るべく奔走する“私”は、やがて戦争が片桐の心に刻みつけた傷の深さを知ることになる―。第37回芥川賞を受賞した「硫黄島」のほか、海軍兵学校に通う若者の葛藤を描き、映画化もされた青春群像「あゝ江田島」など、戦争文学の名作短編6篇を収録。
36回(1956年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
35回(1956年上半期) 近藤啓太郎 『海人舟』
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『海人舟(あまぶね)』は、近藤啓太郎が1956年に発表し、第35回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、海に生きる漁師たちの姿を描いたものであり、特に主人公の青年・勇の成長を中心に描いています。作品全体を通じて、勇が漁師としての誇りを持ちながらも、人間関係や自然の厳しさに直面する過程が繊細に描かれています。
物語は、主人公である22歳の漁師・勇と、彼が同じ船便場で顔を合わせる年上の女性・ナギとの関係が描かれています。勇はナギに恋心を抱き、結婚を考えますが、ナギは「村一番の海人になったら結婚する」という条件を出します。この条件を達成するために勇は懸命に努力し、漁師としての腕を磨いていきますが、その過程で彼は自然の脅威や人間の思い通りにならない現実と向き合うことになります【402】【406】。
『海人舟』では、漁師たちの生活と自然との対峙がリアルに描かれ、特に海という過酷な環境が登場人物たちに大きな影響を与えています。勇が経験する試練や挫折、そして再び立ち上がる姿が丁寧に描かれ、読者に深い感動を与えます。また、作品の中で描かれる恋愛模様や人間関係は、勇の成長と共に物語に豊かな深みをもたらしています。
この作品は、近藤啓太郎が実際に漁師として過ごした経験が反映されており、海での生活のリアルさと厳しさが随所に感じられます。彼自身が千葉県鴨川で漁師として生活したことが、作品に深みと真実味を与えています。そのため、『海人舟』は単なる漁師の物語に留まらず、人間が自然とどう向き合うか、そしてどのように成長していくかを描いた文学作品として評価されています。
34回(1955年下半期) 石原慎太郎 『太陽の季節』
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『太陽の季節』は、石原慎太郎が1955年に発表し、第1回文學界新人賞および第34回芥川賞を受賞した作品です。この小説は、戦後の日本における若者の無軌道な生活を描いたもので、当時の社会に大きな衝撃を与え、「太陽族」という流行語を生むほどの影響力を持ちました。
物語は、高校生である津川竜哉を中心に進行します。竜哉はバスケット部からボクシング部に転部し、ボクシングに熱中する一方で、仲間とタバコや酒、ギャンブル、女遊びに興じる自堕落な生活を送っています。ある日、彼は街でナンパした少女・英子と関係を持ち、英子は竜哉に惹かれていきます。
『太陽の季節』は、その過激で非道徳的な内容から、賛否両論を巻き起こしましたが、当時の若者の虚無感や物質的には満たされているが精神的には満たされない現代人の姿を鋭く描いています。この作品は、日本の戦後社会における新しい世代の価値観を象徴するものとして、今なお文学史に残る重要な作品となっています。
33回(1955年上半期) 遠藤周作 『白い人』
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第二次世界大戦中のドイツ占領下のリヨンで、友人の神学生をナチの拷問にゆだねるサディスティックな青年に託して、西洋思想の原罪的宿命、善と悪の対立を追求した「白い人」(芥川賞)、汎神論的風土に生きる日本人にとっての、キリスト教の神の意味を問う「黄色い人」の他、「アデンまで」「学生」を収めた遠藤文学の全てのモチーフを包含する初期作品集。
32回(1954年下半期) 小島信夫 『アメリカン・スクール』
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アメリカン・スクールの見学に訪れた日本人英語教師たちの不条理で滑稽な体験を通して、終戦後の日米関係を鋭利に諷刺する、芥川賞受賞の表題作のほか、若き兵士の揺れ動く心情を鮮烈に抉り取った文壇デビュー作『小銃』や、ユーモアと不安が共存する執拗なドタバタ劇『汽車の中』など全八編を収録。一見無造作な文体から底知れぬ闇を感じさせる、特異な魅力を放つ鬼才の初期作品集。
32回(1954年下半期) 庄野潤三 『プールサイド小景』
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『プールサイド小景』は、庄野潤三が1954年に発表し、第32回芥川賞を受賞した短編小説です。この作品は、平凡なサラリーマン家庭の日常と、その中に潜む不安や葛藤を描いた物語で、戦後の高度経済成長期を背景にしており、当時のサラリーマンの現実を浮き彫りにしています。
物語の主人公はサラリーマンであり、彼の家庭生活が描かれています。表面的には平穏に見える家庭も、その裏側には夫婦間のすれ違いや夫の仕事への不安が潜んでいます。物語の中で、主人公の夫が会社での不安や疎外感を抱えながら日々を過ごしている姿が描かれ、その姿は高度経済成長期におけるサラリーマンの典型的な悩みを反映しています。
特に印象的な場面として、主人公が会社の椅子に自分の「油」を見出す描写があります。これは、長年の労働によって体から染み出た油が椅子に残ることを象徴的に描いており、労働者としての自己の存在や疎外感を表現しています。このような描写を通じて、庄野はサラリーマン生活の虚しさや、表面的な平穏の中に潜む不安を克明に描き出しています。
『プールサイド小景』は、夫婦関係や家庭の小さな幸福がいかに脆く、容易に崩れてしまうものであるかを描いています。物語の結末では、妻が夫の話を聞いて初めてその内面の一部を知り、自分たち夫婦の関係に対する疑問を抱く場面が描かれており、このことが彼らの関係の脆さを象徴しています。
庄野潤三の静かな筆致による細やかな描写が、平凡な日常の中に潜む不安や、幸福の脆さを浮き彫りにしており、戦後の日本社会におけるサラリーマン家庭の一面を捉えた秀逸な作品として評価されています。
31回(1954年上半期) 吉行淳之介 『驟雨』
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吉行淳之介の短編小説『驟雨』は、1954年に第31回芥川賞を受賞した作品で、戦後の日本社会の空気を色濃く反映しています。この物語は、敗戦から9年後の1954年という時代背景があり、戦後の混乱と虚無感が影を落としていることが特徴です。
物語の主人公は、独身のサラリーマンである山村英夫。彼は愛することを煩わしいと感じ、女性との関係を娼婦街で済ませることで自己の精神の安定を保とうとします。作中で描かれる山村と娼婦である道子との関係は、愛と疑惑の間で揺れ動くものであり、道子が「操を守る」という態度をとることで、山村はその関係に不確かな感情を抱きます。
タイトルにもなっている「驟雨」という表現は、小説の中で繰り返し登場し、登場人物たちの心理状態を象徴しています。例えば、ある場面では、風もないのに突然葉が落ちる描写が「緑色の驟雨」として描かれており、無常感と不条理な出来事が強調されています。この象徴的な表現により、登場人物たちが抱える不安や孤独感が巧みに描写されています。
また、戦後の虚無的な雰囲気もこの作品の特徴です。吉行自身が戦争を経験しており、敗戦後の価値観の転換や多くの仲間を失ったことが、作品全体に漂うニヒリズムに大きく影響していると考えられます。
『驟雨』は、単なる恋愛小説ではなく、戦後の時代に生きる人々の精神的な孤独やニヒリズムを浮き彫りにする作品であり、読者に深い余韻を残す内容となっています。愛と孤独、そして不確かさを描いたこの物語は、戦後日本の社会や価値観の変化を映し出しており、今でも多くの読者の心に響く作品です。
30回(1953年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
29回(1953年上半期) 安岡章太郎 『悪い仲間・陰気な愉しみ』
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安岡章太郎の『悪い仲間』は、1953年に第29回芥川賞を受賞した作品であり、戦後日本の若者の心情や自己探索を描いた物語です。この作品は、大学生である主人公の「僕」が、藤井高麗彦という青年と出会い、その生活に強い憧れを抱くところから始まります。藤井は自由奔放であり、自己破壊的な行動をとる「悪い仲間」として描かれ、「僕」は彼に魅了されながらも、次第にその関係に疑問を感じていきます。
物語は、主人公が藤井や別の仲間たちとの出会いを通して、自己のアイデンティティを模索する様子を描いています。「僕」は上流階級の家庭に育ち、安定した生活を送っていますが、藤井の不規則で破滅的な生活に憧れを抱き、徐々にそのライフスタイルを模倣しようとします。しかし、藤井が朝鮮へ帰る決断をすることで「僕」の憧れは崩れ、最終的には幻滅へと変わります。
『悪い仲間』では、戦後の混乱期における若者たちの不安や孤独が細やかな描写で描かれており、特に主人公が感じる憧れと幻滅のプロセスが物語の中心となっています。藤井は、一見カリスマ的な存在として描かれますが、その実態は劣等感を抱えた一介の青年にすぎず、最終的には破滅の道をたどることになります。この対比が作品全体に深みを与えています。
また、この作品は「第三の新人」と呼ばれる戦後文学の一つに位置付けられており、戦後の価値観の変化や、若者たちが抱く社会への違和感を鋭く描いています。安岡は作品の中で、規範意識と個人の自由との間で揺れ動く若者の心情を描き、その過程で社会的な価値や意味を問い直しています。
『悪い仲間』は、表面的な自由への憧れと、その裏にある自己喪失と幻滅を描いた文学的な作品であり、若者たちが抱える普遍的なテーマを深く掘り下げています。この物語は、現代に生きる読者にも通じるテーマを持ち、読み手に深い思索を促すものとなっています。
28回(1952年下半期) 五味康祐 『喪神』
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豊臣秀次の剣の師で「夢想剣」を名乗る瀬名波幻雲齋とその娘・ゆき、そして幻雲齋が父の仇でありながら、門下生となって修行を積む松前哲郎太重春。奇妙な3人の絆は、やがて哲郎太とゆきが契りを結ぶまでに深まっていく。そんななか、哲郎太は身重のゆきを残して武者修行の旅に出ようとするが―。第28回芥川賞に輝いた出世作「喪神」のほか、柳生流新陰流正統を継いだ連也斎とライバルとの決闘を描く「柳生連也齋」、剣豪が巨人軍の強打者として大活躍する異色作「一刀齋は背番號6」など、剣を題材にした珠玉の11篇。
28回(1952年下半期) 松本清張 『或る「小倉日記」伝』
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松本清張の『或る「小倉日記」伝』は、1953年に第28回芥川賞を受賞した作品で、森鴎外の小倉時代を追い求める一人の青年の人生を描いた物語です。物語は、障害を持ちながらも学問に情熱を捧げた田上耕作と、その母の苦難の人生を中心に展開されます。
主人公である田上耕作は、森鴎外が福岡県小倉市に滞在していた3年間の足跡を記録しようと、10年以上にわたって調査を続けます。しかし、その過程で彼の生活は困窮し、病気と貧困に苦しむことになります。このように物語は、耕作が理想に向かって努力し続けるも、その理想に対する社会の冷たい反応や、現実との乖離によって追い詰められていく姿を描いています。
物語の中で耕作が挑むのは、森鴎外が書いたとされる『小倉日記』の空白を埋めることです。しかし、耕作の努力にもかかわらず、成果は得られず、次第に彼は社会的にも経済的にも孤立していきます。この過程で、耕作がいかに苦しい状況に直面し、希望を持ち続けながらも現実に打ちのめされる様子が細かく描かれています。
この作品は、障害を持つ人々の社会的な苦難を浮き彫りにしながらも、理想と現実のギャップに苦しむ人々の普遍的な姿を描いたものです。松本清張はこの作品で、社会の中で自己実現を追い求める人々の葛藤や孤独、そしてそこから生まれる苦しみを深く掘り下げています。『或る「小倉日記」伝』は、社会派ミステリーとは異なる清張の文学的な側面を示し、理想と現実の間で揺れる人間の姿を鋭く描いた作品と言えるでしょう。
27回(1952年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
26回(1951年下半期) 堀田善衛 『広場の孤独・漢奸その他』
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朝鮮戦争勃発にともない雪崩のように入ってくる電文を翻訳するため、木垣はある新聞社で数日前から働いている。そこには「北朝鮮軍」を“敵”と訳して何の疑いを持たぬ者がいる一方、良心に基づき反対の側に立とうとする者もいた。ある夜、彼は旧オーストリー貴族と再会し、別れた後ポケットに大金を発見する。この金は一体何か。歴史の大きな転換期にたたずむ知識人の苦悩と決断。日本の敗戦前後の上海を描く「漢奸」併収。
25回(1951年上半期) 安部公房 『壁』
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ある朝、突然自分の名前を喪失してしまった男。以来彼は慣習に塗り固められた現実での存在権を失った。自らの帰属すべき場所を持たぬ彼の眼には、現実が奇怪な不条理の塊とうつる。他人との接触に支障を来たし、マネキン人形やラクダに奇妙な愛情を抱く。そして…。独特の寓意とユーモアで、孤独な人間の実存的体験を描き、その底に価値逆転の方向を探った芥川賞受賞の野心作。
25回(1951年上半期) 石川利光 『春の草・他』
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石川利光の『春の草』は、1951年に第25回芥川賞を受賞した作品で、敗戦後の日本に生きる中年男性の葛藤を描いた物語です。主人公である京口は銀座の新興百貨店で働く会計係で、物語は彼の日常と人間関係を通して、その孤独と自己の不安定さを描写します。
京口は飲み屋「亀一」での交流をきっかけに、さまざまな人々と接点を持ちますが、彼の内面は終始満たされないままです。この物語には四季の移り変わりや風景の描写が織り交ぜられ、自然主義文学の影響を強く受けています。京口の人生は無常感に満ちており、彼の情けない姿を通して、読者は戦後日本の混沌とした社会に生きる人々の精神的な不安定さを垣間見ることができます。
物語の中で京口が感じる孤独感や、彼が対峙する社会の無関心さは、戦後の価値観の転換期に生きる人々の心情を鋭く描いています。この作品は、自然主義文学のスタイルを取りながらも、ただの「世間話」に留まらず、登場人物たちの感情の動きや、時折見せる弱さを細やかに描写しています。
『春の草』は、敗戦後の混乱した時代に生きる人々の苦悩を描きながら、社会との向き合い方や、自己の在り方を問う作品です。登場人物たちの不安定な心理描写や、自然を背景にした生活の断片が印象的であり、読み手に深い余韻を残します。
24回(1950年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
23回(1950年上半期) 辻亮一 『異邦人』
この作品の情報はありません。
22回(1949年下半期) 井上靖 『闘牛』
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ひとりの男の十三年間にわたる不倫の恋を、妻・愛人・愛人の娘の三通の手紙によって浮彫りにした恋愛心理小説『猟銃』。社運を賭した闘牛大会の実現に奔走する中年の新聞記者の情熱と、その行動の裏側にひそむ孤独な心情を、敗戦直後の混乱した世相のなかに描く芥川賞受賞作の『闘牛』。無名だった著者の名を一躍高からしめた初期の代表作2編の他『比良のシャクナゲ』を収録。
21回(1949年上半期) 小谷剛 『確証』
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小谷剛の『確証』は、1949年に第21回芥川賞を受賞した作品で、戦後日本における人間関係や社会の価値観を探る物語です。作品は医師である主人公が、自身の行動や周囲との関係に対して深い不安と葛藤を抱く様子を描いています。この不安定な時代において、主人公が自身の存在意義や愛のあり方について問い続ける姿が中心に描かれています。
物語は、一人称視点で語られ、主人公がさまざまな女性との関係を通じて、自己の存在を確認しようとする過程が描かれています。この中で主人公は、女性との関係を「確証」しようと試みますが、その関係が本物かどうか疑い続けるという内容が、読者に強い不快感をもたらします。このテーマは戦後の混乱した価値観や社会における人間の孤独と脆さを象徴しています。
『確証』は、選考委員の間でも意見が割れる作品であり、その文学的価値について賛否が分かれました。ある選考委員は、この作品を「習作に過ぎない」と評し、また別の委員はその独自の批評精神に期待を寄せたという評価もありました。作品全体には、自己探求と孤独、そして現実との折り合いをつけようとする人間の姿が描かれ、読み手に深い内省を促す内容となっています。
21回(1949年上半期) 由起しげ子 『本の話』
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由起しげ子の『本の話』は、1949年に第21回芥川賞を受賞した作品で、家族の絆や個人の葛藤を描いた物語です。この作品は、義兄が亡くなり、彼が遺した膨大な蔵書の処遇に悩む主人公を中心に展開します。義兄の願いに応え、その本を郷里の学校に寄贈すべきか、それとも売却すべきかという葛藤を抱えた主人公は、次第に家族の思い出や自身の価値観と向き合うことになります。
物語の中では、主人公が蔵書の処遇を巡って葛藤する様子が繊細に描かれています。この過程で、主人公は本を通じて義兄の生き様に触れ、その思いを受け継ぐべきかどうかを真剣に考えます。この悩みは単に物の整理にとどまらず、家族愛や記憶の継承といったテーマにもつながっています。
また、作品の舞台には兵庫県西宮が登場し、K療養所や関西学院の庭などが描かれ、実在する場所と絡めた情景描写が作品のリアリティを高めています。特に、主人公が夜中に学校の庭に忍び込み、ミモザを盗もうとするシーンは印象的で、主人公の葛藤と孤独感が巧みに描写されています。
『本の話』は、義兄の遺志や家族の思い出を通して、人間の内面の複雑さを浮き彫りにする作品です。戦後の混乱期における家族の在り方や、個人が抱える責任と愛情の狭間での葛藤を、由起しげ子が丁寧に描いており、その深い洞察が多くの読者の共感を呼びました。
20回(1944年下半期) 清水基吉 『雁立』
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清水基吉の『雁立』は、1944年に第20回芥川賞を受賞した作品で、戦前最後の芥川賞受賞作としても知られています。この物語は、戦時中の日本を背景に、出兵を控えた青年の内面の葛藤と、恋愛を描いた私小説的な作品です。物語の中心には、慎ましくも切ない恋愛が描かれ、戦時中の抑圧された感情と淡々とした生活の描写が作品全体に漂っています。
『雁立』のストーリーは、主人公である青年が、出兵前に感じる不安や孤独、また恋人「つゆ」との淡い交流を描いています。物語には、青年がつゆとの別れを惜しみつつ、将来への不安と自己の存在に対する疑問を抱く様子が描かれています。戦時下の不透明な状況と、それに伴う人間関係の脆さが、静かな筆致で表現されており、登場する場面ごとに主人公の内的な揺れ動きが強調されています。
特に、青年がつゆとの別れ際に「短冊きっと書くわ」という約束を交わし、その後も彼女の面影に囚われる様子などが、細かい描写で描かれており、戦時下での限られた時間の中での繊細な感情が浮き彫りにされています。また、作品の最後に登場する「雁」が空を飛ぶシーンは、自由を求める象徴として印象的に描かれており、作品全体のテーマである「希望と孤独」を象徴しています。
『雁立』は、その抒情的な描写とともに、戦時中の日本社会における人々の心情を描き、読者に深い余韻を残す作品です。清水基吉は、この作品を通して、人間の内面的な苦悩や、戦争という特殊な状況下での人間関係の複雑さを浮き彫りにしています。戦後の混乱期に書かれたこの作品は、戦争の現実と個々の人間の感情の間で揺れ動く様子を静かに、しかし力強く表現していると評価されています。
19回(1944年上半期) 八木義徳 『劉廣福』
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八木義徳の『劉廣福』は、1944年に第19回芥川賞を受賞した作品で、満州を舞台にした物語です。著者の八木義徳は、戦時中に満州理化学工業で働いた経験をもとに、そこでの日本人と中国人労働者たちとの交流や衝突を描いています。この作品は、満州の工場で働く中国人労働者「劉廣福」の姿を通して、戦時下の社会と個々の人々の生き様を克明に描き出しています。
物語の中心となる劉廣福は、無学で吃音という特徴を持つにもかかわらず、その独特の魅力と強い生命力で周囲の人々の心をつかむ人物です。彼は工場内で次第に頭角を現し、日本人管理者たちに対しても独自の存在感を示します。物語の中では、日本人の視点と中国人労働者たちの視点の両方から、戦争とその影響が描かれており、異なる文化や立場の間での対立と共感が織り交ぜられています。
『劉廣福』は、戦争という背景の中で、異文化間の不安定な関係性や、抑圧された状況下での人々の強さを描き出しています。この物語は、戦時中の複雑な状況に直面する人々の人間性を浮き彫りにし、特に劉廣福というキャラクターが持つ底知れぬ生命力としたたかさを通じて、人間の多面性を描いています。また、物語には日本人が満州で感じた違和感や矛盾も反映されており、異文化との接触が持つ緊張感が描写されています。
『劉廣福』は、戦争という特殊な環境下において人間の持つ本質を描き出す作品として評価され、選考委員からはその重厚なテーマと鋭い描写力が高く評価されました。この作品は、戦後日本文学における新たな風を吹き込むものであり、その深い洞察とリアリティが多くの読者に共感を呼んでいます。
19回(1944年上半期) 小尾十三 『登攀』
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小尾十三の『登攀』は、1944年に第19回芥川賞を受賞した作品で、当時の日本統治下の朝鮮を舞台に描かれた小説です。物語の中心には、日本人教師である北原と、彼が特に目をかけている朝鮮人の教え子・安原壽善の関係が描かれています。物語は、北原が安原を「皇国臣民」として立派に育てようとする過程を描くものであり、当時の「内鮮一体」という政策を背景に、文化の違いによる葛藤と、日本人と朝鮮人の複雑な関係を浮き彫りにしています。
作品全体には、戦時中の価値観やイデオロギーが色濃く反映されており、朝鮮人への偏見や、日本人に同化することを肯定的に描く場面も多く見受けられます。このような内容から、現代の読者にとっては違和感や不快感を覚える部分もあるでしょうが、その背景には、当時の日本社会が抱えていた複雑な状況が色濃く影響していることがうかがえます。
『登攀』では、北原の努力にもかかわらず、安原が「立派な皇国臣民」になるかどうかは明確に描かれていません。むしろ、異文化間の摩擦や、教育を通じての「内鮮一体」化の困難さが浮き彫りにされています。この描写を通して、戦時中の日本の植民地政策の現実と、それに伴う個々の人々の葛藤が描かれており、戦争という特殊な状況における人間関係の複雑さを深く掘り下げた作品といえるでしょう。
『登攀』は、戦時下のイデオロギーと教育の狭間で揺れる教師と生徒の関係を描くことで、当時の日本と朝鮮の緊張感や文化の衝突を克明に描き出しています。この作品は、戦争と人間のあり方について深い洞察を促し、読者に複雑な感情を抱かせる内容となっています。
18回(1943年下半期) 東野邊薫 『和紙』
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東野邊薫の『和紙』は、1943年に第18回芥川賞を受賞した作品で、戦時下の農村を舞台に描かれた物語です。この作品は、和紙作りを家業とする一家の生活を通して、戦争による家族の葛藤や分断を描いています。物語の中心人物である長男・友太は、農業のかたわら、和紙の製造に携わる中で、父親の急逝や弟の出征といった困難に直面します。その中で、彼は和紙作りという伝統的な仕事を通じて家族と村の繋がりを支えていこうとします。
『和紙』は、和紙製造の工程やその技術的な側面を詳細に描いていることで知られ、和紙が象徴する文化や人々の生活が深く掘り下げられています。戦争による影響下で家族が引き裂かれる様子が描かれている一方で、希望の光がまだ残っているという感覚も伝えています。このように、物語は戦争の現実を背景にしながらも、希望と平和への希求を表現しています。
作品の中での和紙作りの描写は非常に精緻で、漉槽(すきぶね)や簀(す)などの専門用語も登場し、和紙という素材が持つ文化的な重要性が丁寧に描かれています。また、選考委員からは「整理に苦心を払った美しい作品」として評価され、作品全体の美しさや、戦時下でも失われない人間性の輝きを描いた点が高く評価されました。
『和紙』は、戦争という厳しい状況下での人間の強さや伝統の継承を描くことで、読者に深い感動と共感を呼び起こす作品です。この物語は、個人と家族、そして地域社会がどのようにして困難に立ち向かうのかを繊細に描いており、その内容は今なお多くの読者に響くものとなっています。
17回(1943年上半期) 石塚喜久三 『纏足の頃』
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石塚喜久三の『纏足の頃』は、1943年に第17回芥川賞を受賞した作品で、戦時中の中国を舞台に、モンゴル民族と中国人社会の間での葛藤や同化をテーマに描いた物語です。この作品は、モンゴル民族が中国人社会に同化しようとする過程や、彼らのアイデンティティの揺れ動きを描いており、民族間の複雑な関係性を取り扱っています。
物語の中で、「纏足」という風習は、民族的な抑圧や同化政策の象徴として登場します。特に主人公と周囲の登場人物たちが、戦時下で生き抜くために自身の文化をどのように受け入れ、どのように捨てていくかが描かれており、文化的なアイデンティティの葛藤が作品の中心となっています。
選考委員からは、「屈曲の多い劇的なテーマを、情熱的な筆致で描いた」と高く評価され、特に石塚の持つ情熱と、民族問題を扱う誠実さが評価されました。しかし、その一方で「未成品」のような印象も指摘され、作風には荒削りな部分があると批評されました。それでも、この作品は民族的なテーマを扱いながらも、詩的で感情的な表現が多く、読み手に強い印象を与える内容となっています。
『纏足の頃』は、戦争という時代背景の中で、異文化との接触による衝突や共存の問題を鋭く描き、読者に深い内省を促す作品です。その題材の重さと文学的な深みから、現代においてもなお多くの人々に読まれ、考察されています。
16回(1942年下半期) 倉光俊夫 『連絡員』
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倉光俊夫の『連絡員』は、1942年に第16回芥川賞を受賞した作品で、満州事変を背景にした戦争小説です。この物語は、新聞社に勤務する「連絡員」として、前線と新聞社との間を行き来する主人公・川島彪助の視点から描かれています。物語は、戦争中における新聞記者の役割や、彼らの活動を支える連絡員という立場の苦悩と現実を描写しています。
この作品は、戦時中のリアリティを追求し、細かな日程や実際の中国との戦況を交えた描写によって、戦争の生々しさを読者に伝えます。さらに、突然の幕切れは戦争の無常さと悲惨さを強調しており、読者に強い印象を残します。選考委員からは、そのニュース映画のような生々しさが評価され、戦時中の記録文学としての完成度の高さが認められましたが、一部では「品位が低い」との批判も受けました【183】。
『連絡員』は、戦時中の特殊な立場に立たされた人々の心情を描き、当時の社会の現実と個々の葛藤を浮き彫りにする作品です。そのリアリティと戦争に対する鋭い視点から、戦争文学の一つとして高く評価されています。
15回(1942年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
14回(1941年下半期) 芝木好子 『青果の市』
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芝木好子の『青果の市』は、1941年に第14回芥川賞を受賞した作品で、戦時下の東京、特に築地青果市場を舞台に描かれています。物語は、7人兄弟の長女である八重を中心に進み、彼女が青果問屋を取り仕切りながら、戦時中の厳しい経済環境に立ち向かう姿を描いています。
八重は、家業である青果問屋を自らの手腕で支え、自由経済から統制経済へと変わりゆく時代の流れの中で奮闘します。市場の規則が厳しくなり、これまでのように自由に商売ができなくなったことで、八重の立場が揺らぎ、最終的に彼女は家を離れる決断をします。しかし、その過程でも八重が持つ強い意志と商才は誰にも奪えず、彼女の逞しさが作品の最後まで描かれています。
『青果の市』は、戦時中の女性の生き様を描いた作品として、特にその時代背景における女性の自立と苦悩を描き出しています。戦争の影響を受けた統制経済の中で、商売を続けることの難しさ、家族との関係の変化が詳細に描かれ、読者に深い共感を呼び起こします。また、八重が幼馴染みの結婚祝いの水引を引き裂くシーンなど、彼女の心の痛みとそれに向き合う姿が印象的に描かれています。
芝木好子は、この作品を通じて、戦争という激動の時代における女性の強さや社会の厳しさを表現し、文学的な深みを持たせました。『青果の市』は、当時の社会的状況を背景にしながらも、個人の生き方と尊厳を丁寧に描いた作品であり、そのリアリティと細部の描写が高く評価されています。
13回(1941年上半期) 多田裕計 『長江デルタ』
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多田裕計の『長江デルタ』は、1941年に第13回芥川賞を受賞した作品で、第二次世界大戦中の中国を舞台にした物語です。この作品は、長江デルタ地域における日本の影響力と、中国の現地住民たちの生活を絡めた内容が描かれており、特に上海、南京、杭州といった都市での日本軍の存在が色濃く影響しています。
物語は、三郎という主人公を中心に展開されます。彼は戦争による混乱の中で、自分の信念と周囲の状況の狭間に立たされ、様々な葛藤を経験します。特に、抗日派と親日派の対立が激しい中、三郎がいかにして自分の生きる道を見つけていくかが描かれています。物語のクライマックスでは、街中が日本の影響下で変わりつつある様子が描かれ、戦争が人々にどのような影響を与えるのかを深く考えさせられます。
『長江デルタ』は、戦争という時代背景を利用して、日本と中国の異なる文化や価値観の衝突を描き出しています。その中で、主人公が感じる孤独や葛藤、そして社会に対する無力感がリアルに描かれており、当時の中国における日本の存在が人々に与えた影響を象徴的に示しています。また、この作品には戦時下のプロパガンダ的な側面も見られ、思想的な対立が物語の重要なテーマとなっています。
選考委員の中には、この作品について「文学的精神は高くない」とする批評もあったものの、そのリアルな描写と大胆なテーマ設定が評価され、芥川賞の受賞につながりました。当時の社会情勢と、戦時下で文学を通してどのように表現すべきかという選考委員の苦悩も垣間見えます。
12回(1940年下半期) 櫻田常久 『平賀源内』
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櫻田常久の『平賀源内』は、1940年に第12回芥川賞を受賞した歴史小説で、実在の人物である平賀源内を題材にしています。この作品は、平賀源内が持つ多面的な才能や彼の人間味を描きながら、彼がいかにして時代に逆らい、異端者として生きたかを描いています。
物語は、江戸時代の博学多才な人物である平賀源内を中心に展開されます。彼は科学者、発明家、そして作家としての顔を持ちながらも、時に破天荒であり、その生き様は周囲の人々に衝撃を与えるものでした。櫻田は源内の人間性を、彼の失敗や成功、そして時折の弱さや情熱を通して描き、ただの英雄ではなく、一人の人間としての源内を浮き彫りにしました。
『平賀源内』は、当時の日本の社会的・文化的背景の中で、源内がどのようにしてその独自の立ち位置を確立していったのかを追求しています。彼の自由奔放な性格や、時代の風潮に逆らう姿勢は、当時の社会では異質でありながらも、未来への希望や革新の象徴として描かれています。この点において、櫻田常久は、源内の姿を通じて個人の自由と社会の圧力との間での葛藤を描き出しました。
11回(1940年上半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
10回(1939年下半期) 寒川光太郎 『密獵者』
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寒川光太郎の『密猟者』は、1939年に第10回芥川賞を受賞した作品で、北海道の厳しい自然とそこで生きる人々の葛藤を描いた物語です。この作品は、寒川が自らの体験をもとに、自然と人間との間に存在する緊張感と、それを取り巻く社会の現実を描写しています。
物語は、主人公であるまたぎ(猟師)が、北海道の深い山々で生活し、密猟という行為を通して生計を立てている様子を描きます。またぎたちは、過酷な自然環境の中で生き抜くために、法を犯しながらも自分たちの信念を守っていくというジレンマに立たされています。この過程で、主人公の内面的な葛藤や、社会からの疎外感が深く描かれています。作品には、人間が生き延びるためにどのような選択をし、何を犠牲にするのかといったテーマが織り込まれており、その描写は非常にリアルで迫力があります。
『密猟者』は、単に違法な行為を描くだけではなく、自然と人間との共生、そしてそれを脅かす社会のルールとの対立をテーマにしています。寒川光太郎は、北海道の雄大な自然を背景に、人間の強さと弱さを描き出し、自然との対話を通して生きることの意味を問う作品となっています。また、芥川賞選考委員からも、そのリアリティと描写力が高く評価された一方で、一部には「描写が過剰である」という批評もありました。
『密猟者』は、戦前の日本社会における自然と人間との関係を考えさせる作品であり、そのリアルな描写と深いテーマ性から、読者に強い印象を残します。自然の中での孤独と、それに対する人間の本能的な反応を描いた本作は、現代においてもその価値を失うことなく、多くの読者に読み継がれています。
9回(1939年上半期) 半田義之 『鶏騒動』
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半田義之の『鶏騒動』は、1939年に第9回芥川賞を受賞した作品で、日本の農村を舞台に、強欲な老婆と亡命ロシア人の交流を描いたユーモラスな物語です。この作品は、戦前の農村の生活を背景にしながら、異質な存在である外国人と村人たちとの交流を通じて、人間の心の変化や異文化との触れ合いを描いています。
物語は、亡命ロシア人のドナイフが日本の寒村にやってくるところから始まります。村の人々にとって外国人である彼は非常に珍しい存在で、特に人嫌いの老婆がドナイフと関わるうちに次第に心を開いていく様子が描かれています。彼らの関係は、最初は利害の一致から始まるものの、徐々に友情や信頼に発展していき、異文化との交流が生み出す不思議な絆が表現されています。
選評でも「漫画風の筆づきで人物を大袈裟に描いているが、その誇張が作品の面白味となっている」と評価されており、その軽妙な描写が読者に強い印象を与えています。また、異文化の対立や共存といったテーマが、戦前の日本社会においても普遍的なものとして受け入れられたことが受賞理由の一つです。
『鶏騒動』は、異なる文化や価値観の中で、如何にして人々が理解し合い、共存するのかを問いかける作品です。その背景には、当時の社会における外国人に対する偏見や恐れも含まれており、その中で築かれる友情や絆の尊さが強調されています。ユーモアを交えた筆致で描かれたこの物語は、現代でも多くの読者に親しまれています。
9回(1939年上半期) 長谷健 『あさくさの子供』
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長谷健の『あさくさの子供』は、1939年に第9回芥川賞を受賞した作品で、昭和初期の東京・浅草の下町を舞台に、教師とその教え子たちの葛藤を描いた物語です。この作品は、戦前の社会の影響を受けながら、教育現場における人間模様を繊細に描写しています。
物語は、3つの章から成り立っており、それぞれの章で異なる子供に焦点を当てています。「星子の章」では、素行の悪い少女・星子が登場し、教師・江礼が彼女との関係を通じて感じる矛盾や葛藤が描かれます。続く「圭太の章」では、経済的に困窮し、弁当を持ってこれない少年・桂太を中心に、当時の社会の貧困と差別が描かれます。「律子と欽弥の章」では、幼馴染の二人が少しずつ成長し、微妙な心理の変化が描かれる中で、教育と子供たちの感情の交錯が展開されます。
作品全体に流れるのは、戦争の影が教育現場に及ぼす影響です。例えば、学校での日の丸弁当の奨励や、軍国主義的な教材の使用など、戦時下の教育の現実が描かれています。当時の社会における子供たちの純真さと、それに対する大人の期待やプレッシャーが複雑に絡み合い、物語を通じて戦時中の生活の一端をうかがうことができます。
『あさくさの子供』は、教師という立場から子供たちの心情を観察し、その行動を軽快な筆致で描いた作品です。選考委員からも「児童の心持と行動が詳細に観察され、軽快な筆致でスッキリと写生されている」と評価され、その描写力が高く評価されました。戦争の時代においても、人間性を見失わずに描かれたこの作品は、昭和の教育と人間関係を深く考えさせる内容となっています。
8回(1938年下半期) 中里恒子 『乗合馬車』
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中里恒子の『乗合馬車』は、1938年に第8回芥川賞を受賞した作品で、日本初の女性芥川賞受賞者としてその名を刻んだ記念碑的な作品です。この物語は、フランス人女性アデリヤと日本人男性森之助の夫婦の物語を中心に、国際結婚と異文化間での葛藤や挑戦を描いています。
アデリヤは、異国の地で奮闘する自立した女性として描かれ、彼女の強さと孤独が物語の主軸となります。一方で、日本人男性と外国人女性の夫婦である一龍とドロシイ夫妻も描かれ、ドロシイは家庭的な女性として描写され、対照的な夫婦像が提示されています。このように、異文化交流の中での女性の役割や自立を描くことが作品のテーマとなっています。
作品は、当時の日本社会における国際結婚という珍しいテーマを取り扱い、異国の地で生きる女性の自立と挫折を鮮やかに描いています。選考委員からは、「閨秀画家の水彩を見るように、鮮やかで美しい」と評価され、その繊細な描写と色彩感が好評を博しました。ただし、一部では「綺麗ごと過ぎる」との批評もあり、作品の評価は賛否が分かれたものの、斬新なテーマと美しい筆致が評価され、芥川賞を受賞するに至りました。
『乗合馬車』は、異文化間の対立や共存、女性の自立とその難しさを浮き彫りにする作品であり、戦前の日本において新たな視点を提供した作品として、現在も多くの読者に影響を与え続けています。
7回(1938年上半期) 中山義秀 『厚物咲』
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中山義秀の『厚物咲』は、1938年に第7回芥川賞を受賞した作品で、菊の栽培をテーマに人間の孤独や執念を描いた物語です。この作品は、孤独に生きる人間の執着や、情熱の行き着く果てを描き出しています。
6回(1937年下半期) 火野葦平 『糞尿譚』
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出征前日まで書き継がれ、前線の玉井(火野)伍長に芥川賞の栄誉をもたらすと共に、国家の命による従軍報道、戦後の追放という、苛酷な道を強いた運命の一冊「糞尿譚」。
5回(1937年上半期) 尾崎一雄 『暢氣眼鏡』
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尾崎一雄の『暢気眼鏡』は、1937年に第5回芥川賞を受賞した短編集で、貧乏な生活を明るく描いた牧歌的な作品群です。主人公の「私」とその妻芳枝との日常生活を描いた物語で、物質的には非常に困窮しているものの、その中にも幸せや喜びを見出そうとする二人の様子が生き生きと描かれています。
4回(1936年下半期) 石川淳 『普賢』
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中世フランスの女流詩人の伝記を書く主人公「わたし」、友人庵文蔵、非合法の運動をする文蔵の妹ユカリ―日常の様々な事件に捲込まれ、その只中に身を置く「わたし」の現実を、饒舌自在に描く芥川賞受賞作「普賢」のほか、処女作「佳人」「貧窮問答」など。和漢洋の比類ない学識と絶妙の文体、鋭い批評眼で知られた石川淳の文学原理を鮮明に表出する初期作品群四篇。
4回(1936年下半期) 冨澤有爲男 『地中海』
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3回(1936年上半期) 小田嶽夫 『城外』
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小田嶽夫の『城外』は、1936年に第3回芥川賞を受賞した作品で、異国の地での孤独と愛を描いた短編小説です。この物語は、中国の杭州を舞台に、主人公である日本人官吏と下女・桂英との複雑な関係を描いています。物語の背景には、日中関係や時代の変化が色濃く反映されています。
3回(1936年上半期) 鶴田知也 『コシャマイン記』
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和人によるアイヌ民族迫害の歴史を、誇り高き部族長の裔・コシャマインの悲劇的な人生に象徴させ、昭和十一年、第三回芥川賞を受賞した、叙事詩的作品「コシャマイン記」を中心に、棄民されていく開拓民の群像と、そこでの苦闘に迫る「ナンマッカの大男」「ニシタッパの農夫」など、北海道を舞台とした初期作品九篇を精選。アイヌと下層農民を描くことで、民族的連帯を模索した稀有なる試み。
2回(1935年下半期) - 該当作品なし
今回の受賞作品はありません。
1回(1935年上半期) 石川達三 『蒼氓』
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石川達三の『蒼氓』は、1935年に発表され、第1回芥川賞を受賞した作品です。この物語は、国策として奨励された日本からブラジルへの移民をテーマに、地方から集まった貧しい農民たちの苦悩と希望を描いています。作品は、神戸港の移民収容所から始まり、移民たちが船で新天地ブラジルへ向かうまでの過程を描きます。物語全体を通して、移民たちの絶望感や、移民先での新しい生活に対する不安がリアルに描かれています。